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彼女の細い指が椅子の背もたれを回転させると、千里が
「うわっ!」
と短い悲鳴をあげた。
画面には、フローリングの床に倒れた人間の姿が映っている。スーツを着た男性は白髪交じりの後頭部を見せ、ミステリー映画の被害者のようにうつ伏せに倒れていた。
否、被害者のように、ではない。これは紛れもなく、殺人事件だ。
ガチャガチャ、ドンドンドン!
鍵のかかったノブが回され、乱暴にドアを叩く音が調整室に響く。
「服部、開けろ!」
「あっ編集長、ちょ、ちょっと待ってください。俺がつっかえてて今ドア開けられないんで!」
千里が慌てた様子で椅子をガタガタ鳴らした。
「大変お騒がせいたしました。私はこれから警察署に行き、自首いたします。皆様、私の復讐にお付き合いくださり、ありがとうございました」
天野の妻は画面の向こうで深々と頭を下げた。そして、画面は暗転。彼女は自ら、オンライン授賞式を退出した。
その瞬間、椅子をどかした千里がドアを開き、編集長ほか数名がなだれ込んできた。
「服部、強制終了しろ! 閉会だ!」
編集長が怒鳴ったとき、画面に映し出された新川が、ニュースキャスターのような真顔で司会の職務を全うした。
「衝撃の授賞式となりました。天野ジャック先生の安否と彼女の話の真偽、また受賞作のこれからにつきましては、今後明らかにされていくことと思います。
皆様本日は長時間にわたりご静聴くださりありがとうございました。第十七回光栄社スパーク小説新人賞授賞式、これにてお開きとさせていただきます」
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