ホームで転んだ人

1/1
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ

ホームで転んだ人

   ある日、都内の電車のホームで一人の青年がつまずきました。ここまではよくある話。  ところが、全く同じタイミングで、青年の近くでもう一人転んだ人がいました。同時に転んだ二人は、手をついた拍子に肩同士がポンと当たりました。何という運命でしょう。  しかし、そこに恋が芽生えることはありませんでした。 「何なのよッ」  青年が顔を上げた時、相手の中年女性はそう吐き捨ててすぐに行ってしまいました。一方の青年はすぐには起き上がりませんでした。 (このシチュエーション、小説に使えそうだぞ)  家に帰ると青年は早速、ホームで同時に転んだところから始まる恋愛小説を書き始めました。青年の筆力があったのでしょう、ネット上で公開した作品は人気となり、ついに出版されることになりました。  後日、その小説を知った例の女性は、自分も似たような体験をしたのだと得意げに言い触らしました。  
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!