御掃除係の憂鬱

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 わたくしのお仕事は、ご主人様の部屋を綺麗にすることです。  小さな埃一つすら残さず、ピカピカの部屋に仕上げるのがわたくしの任務。  まずはぐるりと部屋の隅からごみを取り除き、家具の隙間からベッドの下まで、隅々まできれいに掃除をするのが毎日のルーティンワーク。  お仕事を終えて帰宅されたご主人様が部屋を見渡し満足そうに頷いて、わたくしのことを褒めてくださる時が至福の時。生きててよかったと実感するのです。  今日も今日とて、大好きなご主人様が外出している間にお部屋を綺麗にして差し上げるのが、わたくしの生き甲斐なのでございます。  そんなご主人様とわたくしの穏やかな日常に、邪魔者が入ったのはつい最近のこと。  元から綺麗に片付いていたご主人様の部屋を、毎日ぐちゃぐちゃに散らかしてはわたくしの大事なお仕事の邪魔をする曲者が現れたのでございます。  わたくしは床の掃除は致しますが、ご主人様の大切なものには触れてはならないことになっております。それなのにその曲者ときたら、ご主人様の許しもなく衣類を引っ張り出したり、チリ紙をばらまいたり、本棚の本を落としたりとやりたい放題。わたくしの止める言葉にも聞く耳を持ちません。  その曲者がご主人様の新しい同居人だということは、少ししてから知りました。  ご主人様とわたくしのスイートライフに突如乱入してきた暴れん坊、到底許せるはずもありませんが、その新しい同居人に向けるご主人様の微笑みは、わたくしですらまだ向けられたことのないもの。彼はご主人にとって、悪戯さえも気にならないくらいに特別な存在であったのです。  わたくしはあくまで御掃除係。その新しい家族のように、ご主人様に寄り添ってお心を癒して差し上げることなどできやしないのです。  お前はお前、わたくしはわたくしの生き方でご主人様と共に暮らそう。  そう思っていつものお掃除を始めたとき、ふと背中に触れる温かい温度に気が付きました。  蹲って掃除をするわたくしの背中に、小さな新しい家族がそっと寄り添っているのです。  邪魔をしても無駄ですよ。そう言ってわたくしはお掃除を続けますが、その悪戯っ子は背中から離れようとしません。  どうして。あなたはご主人様のお気に入りのはず。わたくしはあくまで掃除係。  だというのに、わたくしのことも家族と認めてくれるのですか。  ご主人様と共に、家族として受け入れてくれるのですか。  心がじんわりと熱くなって、思わずしんみりとしてしまったとき、ご主人様がお仕事から帰宅されました。 「え? うわあ、なにやってんだカメラカメラ」  ぴったりと寄り添う我々に驚いたような顔をして、ご主人様がこちらにカメラを向けます。  ご主人様に写真を撮られたことなど、出会った日以来かもしれません。  しかし今度は、新しい家族も一緒です。わたくしも観念して、この小さな可愛い同居人を家族と受け入れることにいたしました。  その日ご主人様が、嬉しそうにSNSにわたくしたちの写真を投稿していたことなど知る由もなく、わたくしは今日も日課のお掃除に励むのでございます。 『猫がロボット掃除機乗りこなしてた』
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