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「親鳥は、雛たちを平等に愛していた。
雛たちの話を全て聞き、時に厳しく愛を注いだ。
……最初に生まれた雛鳥には、特に厳しく接していた。
でも、他の雛たちが寝てからだけ、
親鳥は雛鳥に優しくした。沢山の愛を注いだ。
而して、或る朝。雛鳥は冷たくなっていた。
…………雛鳥を殺したのはだぁれ ? 」
イヴは、薄暗いバーカウンターの向こうでカクテルを作り乍ら突然そう呟いた。カウンター席に座って居た二人は、質問の答えを考えているのか頭を捻る。
「ん〜、親鳥じゃないん ? 」
「他の雛たち……かな ? 」
出来たカクテルをグラスに注ぎ、二人の前に置くとイヴは更に質問を続けた。
「何うして、そう思ったの ? 」
「俺は、特に理由無いわ」
「理由か……雛たちが寝た後に、親鳥が雛鳥に優しくしているのを雛たちが見てしまい嫉妬したから……とか…………」
猫耳の少年は、何故か得意気にそう言ってカクテルに口を付ける。其の隣に座っていた綺麗な黒髪の女性は、グラスを持った儘小首を傾げ答えた。
「アンタ等らしいわね。
先ず、マオは半分正解だけど野生の勘にばかり頼らずもっと考えた方が良いわよ。……珠夏は短絡的と言うか、単純で表面的にしか状況を理解出来てない様ね」
思った事を包み隠さずきっぱり伝えると、イヴはつまみの用意を始める。
「えー……じゃあ、答えは何なのさぁ」
「私も聞きたい」
「そうね。
……あたしもアンタたちも昔、虐めや虐待にあってたじゃない ?
だけど、本当に時々何の気まぐれか虐め子が優しくしてくれる時があったのよね。アンタたちは何うだった ?
まぁ、何が言いたいかって言うとだ。
…………虐められて感じた悔しさや憎しみ。優しくして貰った時の喜びと安心。
今、当時を振り返った時。アンタたちの心に蘇る感情は……どっちの方が大きい ? 」
二人は飲んでいたカクテルのグラスを同時にテーブルに置くと、一呼吸置いてから夫々がイヴの質問に答えた。
「虐められて、悔しかった感情のが大きいかな……」
「俺も」
「でしょ ?
……赤ちゃんてね。愛情が無いと死んじゃうのよ。
ひょっとしたら雛鳥は、他の雛たちが寝た後で一番可愛がられていたのかもしれないわ。けれど、雛鳥は厳しくされた時の悲しみや辛さを忘れられず愛情に餓えていた……
だから、直接的では無いけど雛鳥を殺したのは親鳥なのよ」
そう言い乍らイヴは二人の後ろにある窓へと視線をやり、夜空を冷たく照らす月を……悲しそうな眼で見詰める。
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