僕の欲望は止まらない。

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僕の欲望は止まらない。

今夜は今季一番の冷え込みになり、山間部では積雪になる可能性があると朝の情報番組でアナウンサーが言っていた。あと三日でお正月となる、年の瀬らしい天気だ。キッチンでおでんを温めながら、足元が冷えるなぁと裕樹(ゆうき)は思わず体を震わせる。 不意に外から靴音が聞こえて、家の前で止まった。時計の針は二十一時半を指している。恋人の(しん)から『帰るよメール』が来て三十分。いつも通りに彼は帰ってきた。 「ただいまー。あー、さみぃ」 玄関のドアを開けて手を揉みながら慎はキッチンにいる裕樹に背後から抱きついた。慎の真っ赤になった耳が、外の寒さを物語っている。 「お帰り。今日は寒いからおでんだよ」 「おっ、いいねー!」 裕樹と慎が一緒に暮らし始めて一年。大学生の裕樹が料理を担当している。社会人で葬儀屋に勤める慎は忙しいらしくここ最近、帰りが遅い。そんな慎の帰宅を裕樹は待って一緒に夕飯を食べる。片付けが一回で済むからだと本人は言っているが本当は一緒に食べたいのだろう。裕樹の可愛さに慎はデレっとしてしまう。 裕樹のお手製おでんは慎の大好物だ。嬉しそうに食べる慎に、裕樹の顔も思わず綻ぶ。食事が済んで風呂から上がるともう二十三時前。こたつに入り込み、ボーッとテレビを見る慎。後片付けを終えて裕樹もこたつに入る。そして二十三時からのニュース番組を見ながら、ミカンを食べる。まるで熟年の夫婦みたいにまったりとした時間が流れていく。 「明日は雪、積もるかなぁ」 「この辺りは大丈夫さ。積もるのは山間の田舎だろ」 ふぁぁ、と大きな欠伸をして慎がゴロンと横になる。 *** 二人が恋人同士になったのはまだ慎が大学生だった頃。共通の友人から紹介されてお互いを知った。慎が歳上だったので、初めは裕樹は敬語を使っていたが、いつの間にかそれもなくなりすっかり親友になっていた。そんな裕樹からある日、告白を慎は受けた。いわゆるイケメンの部類に入る裕樹が彼女を作らないのはゲイだからではないかと噂はたっていたが、本当だったのかと慎は驚いていた。 パーマを当てた短髪に、黒縁のメガネ。少しだけ猫背の彼は、慎に告白しながら真っ赤になっていた。即答出来なかった慎はその後、裕樹と距離を置き、様子を見た。 慎は裕樹が『そういう目』で見ていたことへの嫌悪感が、拭えなかった。裕樹も避けられていることが分かったのか、だんだんと慎に声をかけなくなる。そして慎と裕樹が顔を合わさない日が続いた。いつも慎と裕樹が一緒にいたので、離れてしまった二人の様子に、周りの友人達はかなり心配していた。 ある日、偶然校内で裕樹を見かけ慎は驚く。 元々細身だった裕樹が更に痩せていて、顔色も悪い。心配した慎は、共通の友人に裕樹の様子を聞くと、かなり元気がなくいつもぼんやりしていると言う。何よりどんどん痩せる裕樹に周りも心配していると。 明らかに自分のせいだと裕樹の元へ行く慎。間近で見た顔は肌荒れを起こしていた。あんなに綺麗な肌をしていたのに、と慎は胸を痛める。 『お前を受け入れてやるから、ちゃんと飯食えよ』と慎は精一杯歩み寄り、裕樹にそう言ったのだ。それを聞いて裕樹は、一旦受け入れると言ってくれた慎に大きな笑顔で抱きついた。 そんな感じに付き合い始めたものの、蓋を開けてみれば慎がすっかり裕樹にハマっている。友人の延長としての恋愛から、いつの間にか紛れもない恋愛となっていた。はじめてのキスに戸惑いつつも嫌な気にならなかったのは慎の中で裕樹に対する気持ちが変わったせいだろう。付き合い始めて三ヶ月経った頃、身体を重ねた。どこを触れば良いのか、どう気持ちよくなるのか。気がついたら慎は裕樹の中で果てていた。 *** 「しーん、こたつで寝たら風邪ひいちゃうよ」 「ん…」 横になり、ウトウトし始めた慎に裕樹は声をかけるが慎は起きそうにない。最近残業が続いているので、疲れているのだろう。暫くほっとくか、と晩酌をしながら眠る慎を眺める。 自分より更に短い慎の髪は清潔感がある。葬儀屋ということもあり身なりには気を遣っているのだ。ただ、気を遣っている割にはピアスをつけている。そのギャップと、目の下にある泣きホクロが裕樹はたまらなく好きだ。無防備な姿の慎に裕樹はホッとする。付き合った当初は同情から慎が我慢してくれてたことに気づいていたが、今や彼も自分にベタ惚れなのが分かる。 (こういうのを幸せって言うのかな) 慎のホクロを触りながら裕樹はぼんやりと考える。 「う…ん…」 慎が不意に寝返りを打つ。その声に、裕樹はムラっとした。元々裕樹は酒が入ると身体が疼き始める。今日はちょっといつもより深酒をしているので… (あ、ヤバイ) 身体の疼きと比例する自分のソレに思わず苦笑した。そういえば最近してないなぁ、と呟いた。一人で抜けばいいんだけど目の前に恋人がいるのに、そんな寂しいことは出来ない。 寝息を立ている慎のうなじに指を這わせる。ゆっくりと触れながら唇を重ね、うなじを舐め上げていく。右手でトレーナーと下着をたくし上げる。露わになった胸元の乳首を指でクルクルと撫でながら片方の乳首を舐める。ピクッと慎の身体が揺れたが、起きる様子はない。乳首を舐めながら、指で摘みながら左手でズボンの中に手を入れて慎のソレに直接触れた。 「ん…」 一緒眉をひそめる慎に、裕樹はクスッと笑う。寝ながらも反応するんだ。と。ゆったりと慎のソレをしごいていく。だんだんと膨張していくソレの感触を手で感じながら裕樹の息遣いが荒くなっていく。 (あぁ、入れてほしいな…) スエットを下着ごと脱がして裕樹はこたつに潜り込む。流石に暑い、とこたつのスイッチを切る。膨張したソレが目の前に現れると躊躇することなく口に含んだ。軽く慎の足が震え、口の中で更に膨張する。ソレが愛しくて裕樹は更に喉の奥まで咥えたり、舌で棒や付け根を丹念に舐める。テラテラと濡れているソレを見ながら。 「んっ…あ…」 流石に違和感を感じたのか慎が身体を動かす。それでも裕樹は口を離さない。暫くすると、ガバッとこたつ布団が開かれた。 「ゆ、ゆうきっ!お前何してんだよッッ!」 真っ赤になった慎。完全に目覚めたようだ。 「おひゃよ」 口に咥えたまま、からかうように慎を見る。 「おま…ッ!あっ…!」 不意に裕樹が先端を舌でつついて慎の身体が仰反る。 「ねぇ、慎、入れてよ」 「入れろって、明日も仕事…ヒッ!」 慎が話してる最中に、裕樹がソレをギュッと握る。顔を近づけて目を見つめながら裕樹が笑う。少し蕩けた瞳を見せながら。 「もう我慢出来ない。後ろ、準備してるから」 慎がふと裕樹の下半身を見た。下着もスエットも脱いでいる。準備したということは、慎のを舐めている間空いていた手で自分の後ろを触っていたのだ。裕樹は、立ち上がり慎の言葉を待たずに身体を跨いで慎の膨張したソレを自分の中にゆっくりと咥えさせていく。ヌチュ、と淫靡な音が聞こえる。 「う、あ、あっ…、」 欲しくてたまらなかったソレを美味しそうに裕樹が入れていく。 「バカ、ゆう、きっ…」 無理矢理起こされてこの状態になった慎。始めは抗っていたものの、だんだん夢現に快楽を貪る。慎もまた久しぶりの行為に胸が高鳴っていた。 「あ、あっ、ね、慎…もっと」 上下運動するたびにクチュクチュと音がする。だけど裕樹が欲しいのはこんな優しいものではない。壊れるほど激しく奥まで突いて。その裕樹の言葉に慎はクソッ、と言うと裕樹の腰を持ち大きく上に突く。 「あああっ…!気持ちいぃ…っ!」 二人とも息を切らしながら喘いでいる。 「もっと、もっとぉ…ッ」 「裕樹、バック…、にしよ」 体位を変えてより奥まで突けるようになると、慎は容赦なく裕樹の身体のなかへ何度も突いてゆく。 「アッ、あっ….あっッ、も、深いッ…」 「もう、そろそろ、ヤバ…っ」 グイッと腰を持ち思い切り裕樹の奥へと突く。 「ああッ、ああああー…っ!!」 慎の白濁したソレを裕樹の中で爆発させた。 「なあ、俺、明日仕事あるって言ったよな?」 シャワーを浴びて着替えた慎が、ベッドの中で裕樹を見ながら言う。時計の針は既に午前二時だ。七時には起きないといけない慎にとっては寝るには中途半端すぎる。それでも寝ておかないと体がもたない。 「あ、ごめんねー。ついつい」 悪びれた様子がない裕樹にぶつぶつ慎が呟く。 「だってさ、慎。明日も生きてるとは確信できないんだよ。もし明日死んだら『ああ抱き合っておけばよかった』って後悔しちゃうじゃん」 「…」 「慎のこと大好きだから後悔したくないんだもん」 慎を見ながらあっけらかんとそう言う裕樹に、慎は顔を真っ赤にしてベッドに顔を埋めた。慎だって、裕樹がいなくなったらきっと後悔する。いつまでも一緒にいたいし、抱き合いたい。それはきっと恋人同士の止まらない欲望なのだ。 「まだ慎の職場でお世話になりたくないからね」 「バカ」 布団から手を伸ばして裕樹の頭を叩く。 「縁起でもねぇこと、考えんなよ。まだまだ一緒に居ようぜ。来年も再来年も、ずっと」 慎は毛布に裕樹の顔を見ずにそう言う。恥ずかしいのだろう、耳まで赤い。裕樹は嬉しくなって、慎の髪をくしゃくしゃに撫でた。 外では雪が降り始めていた。静かに、静かに。天気予報を裏切って、市街地にも雪はどんどん降ってきて屋根や車に積もってゆく。静寂が戻った部屋の中で二人は手を握ったまま、眠りに入った。 【了】
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