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華奢な女子の手足があれほど無数の切り傷や、タバコを押しつけたような火傷を耐えられるとは思っていなかった。いや、俺はもちろん、あんな拷問を受ければ殆どの男だって精神的に壊れてしまうだろう。
脳裏に焼きついた夜桜の裸体は光と闇が溢れていた。胸の大きさはともかく、スポーツで鍛え抜いたような、薄い筋肉に包まれた体と、日にちを数える囚人が刻み込んだような手足の細かな傷跡。首もロープで絞められたのか、蛇の鱗のように赤く腫れ上がっていた。しかし恐らく誰も夜桜の傷跡のことを知らない。彼女は今は夏だというのに長袖のブラウスを一番上のボタンまで留めて手足と首を隠している。また、考えてみると、スポーツ万能そうなのに病気という理由で体育の授業に出ていない女子がいる、と噂で聞いていた。多分、夜桜のことだ。
自分勝手な使命感かもしれないが、俺は夜桜のことを放っておけないと思った。
「会長って面倒見がいい人ですねえ」夜桜は皮肉っぽく言う。「あんたに関係ないって言ったらどうします?」
「……俺の電話番号を押しつける。なにかあったら夜の三時でもいいから電話しろって言う。パジャマ姿で駆けつけるぜってかっこつける」
はあ、と夜桜は脱力したかのように額を押さえる。「会長の諦めの悪さ、ナンパ師も顔負けですよ」
「俺に今できることがあったらそれをしたい」
「……言っておきますけど、あたし虐待されてませんから。でも、それだけ言っても会長には通じませんよね。あー、めんどくせー」夜桜は天を仰ぐ。「じゃあ歩きながら話しましょう」
「歩くってどこに?」
「自宅に。って、まさか会長知りませんでした? あたしたち同じマンションに住んでるんですよ」
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