相棒

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相棒

 すっかり冷めたハンバーガーを頬張るパートナーの横顔を眺めながら、ジェイは思わず顔がにやけてしまう。ハルは捜査資料を読むのに気もそぞろで、食事は二の次といった様子だ。口ひげににケチャップがついているが、まったく気づいてない。  ジェイは、今の捜査チームに入って2年目の若手刑事だ。そして今隣のデスクで遅めのランチにこぎつけている「相棒」ハルは、この道20年のベテランだ。刑事になるために生まれてきたような男。捜査にかける集中力はすさまじく、元海兵隊のスナイパーだった射撃の腕は、何度か表彰されているほどだ。   だが私生活はというと、署内での噂によれば、はるか昔に離婚したきりで、男やもめの典型的ワーカホリックといった体だ。  だからジェイは、凶悪犯罪課の「伝説の刑事」的存在のハルと組めると知ったとき、興奮を抑えきれなかった。それはもちろん、自分も大先輩から仕事のいろはを学び、理想とする刑事に近づきたかったからに他ならない。だがパートナーとしてチームを組んで一年ほどが経った今、まさか違う意味で興奮することになろうとは。   ジェイはこの状況の奇妙さに改めて驚きながらも、同時に心躍る感覚を覚えずにはいられなかった。いつ頃からハルのことをこんなに愛おしく感じるようになったのだろう。  ハルは、寡黙な男だった。必要なこと以外、ほとんどしゃべらない。刑事の仕事についても、ジェイにいちいち教えたりはしない。だからハルは必死についていった。ハルのやることを真似し、彼ならどうするか、と常に想像し、実践していった。  彼は一匹狼タイプで、人と群れず、軽口をたたくこともほとんどなかった。かといって、ジェイに対して冷たい態度を取ったり、邪魔者扱いするというわけでもなかった。これまでの経験からジェイは、大抵の古参刑事たちは、自分の経験だけを信じ、未知のものや変化を嫌うことを知っていた。だから、ハルと組むにあたってはそれなりの覚悟をもって臨んだ。  だがハルは違っていた。捜査についても、ジェイの意見をただ新人だからという理由だけではねつけることはなく、ハルが納得する理由があれば柔軟に受け入れた。ジェイを青二才扱いすることもなく、ただ、チームの一員として、他の刑事たちに対するのと同じように接した。これが一流の刑事というものか。自分に足りているが、謙虚でもある。ジェイは密かに、ハルを師と仰ぐことに決めた。
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