01 空にいちばん近い場所

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「……あらら。屋上は立入禁止らしいのに、いいの?」  入り口にかかっていた鍵をあけて重たい扉を開いた瞬間、見えたのは青空。ではなく、腕を組んだまま目を細めた少女の顔。  彼女があげた声に驚きで一瞬息が止まりそうになった。  はじめてだった、屋上に先客がいるなんて。それもそうか、自分以外が屋上の鍵を持っているわけもないし。  ドクドク、なんて心臓の音がまだうるさく耳の奥に響いていた。  けれど早まった鼓動に合わせて息が上がってしまった僕にはさほど興味がない様子で「きみも悪い子だね」なんて少女は呆れたように笑う。  彼女の細められた瞳の奥に隠された真意は読めなかった。  たしかに鍵を開けたはずなのに、どうして彼女が屋上にいるのか。そもそも、鍵を持っていないはずの彼女がどうやって屋上に出たのか。  気になることは山ほどあるが、息を吸い直しても出せなかった声に話すことを諦める。  いつもそうだ。肺いっぱいに空気を吸い込んでも、吐き出す息に声が乗らない。小さな頃から空には声が出せても、人には出せなかった。
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