第一章 黒船

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 俺は駿河の腕を掴むと、倉庫兼ミーティングルーム兼従業員寮となっている、隣の部屋に移動した。  黒船は、文化財の銀行の真下にあたり、古い金庫室がそのまま残っていた。その金庫の扉は、黒船店内の壁となっていて、そのままの姿で保存されている。  金庫の向こう側は部屋になっていて、俺と寿村が住んでいた。  一旦、黒船を出ると、俺と駿河は階段横の通路に入り、鉄製の扉を開けた。扉の中には幾つも棚があり、乾物やワインが置いてあった。その奥には二段ベッドが二つあり、奥のベッドは寿村の寝床で、手前のベッドが俺の寝床であった。  俺は二段ベッドの上に、カーテンを付けて寝ていて、下の部分に荷物を置いていた。寿村は逆で、上に荷物を置き、下で眠っていた。  ワインの並んだ壁の横に、ワイン樽があり、その上に板を置いてテーブルにしている。それがミーティングルームで、パソコンも置いてあった。 「駿河、何か分かったか?」 「今、建治が探している……」  建治というのは、駿河の双子の弟で、高校二年の夏に行方不明になっていた。高校球児で、レギュラーで出場した夏の大会の第一試合で勝利し、その帰り道でいなくなってしまった。  駿河が黒船で働く理由は、弟の建治に何が起こったのか調べているかららしい。  ただ、駿河は建治が死んでいる事は確信していた。その理由は明白で、行方不明になっても駿河と建治は繋がっている。一卵性であったせいなのか、互いの事が分かるらしい。  そして、建治は死後の世界で相手を探す。 「いそうか?」 「まだ、見つかっていない」  死後の世界というのが、どのようなものか分からないが、建治はそこで亜利沙を探していた。
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