第二章 黒船 二

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「木村は、上条を見捨てて一人で逃げた。店のほうは、借金は返済しているので、まあ、いいかとそのままにした。それに富豪の目当ては上条で、木村ではなかった」 「でも、木村は帰っていない」  木村の両親も、ここまでの経緯を独自で追っているようで、店を訴える準備をしていた。 「ここからが問題で、都市伝説になってくる……」  どう都市伝説になるのか、じっくり話を聞こうとしたが、雪谷が怒って寿村を迎えにきた。 「寿村、話し込んでいないで、料理をしてね。客が待っている」 「あ、俺達も店にでます。明日、現場に行ってみます」  寿村が耳を掴まれて連れてゆかれると、俺も黒船のエプロンを付けた。黒船の店内に行くと本当に客が待っていて、鈴鹿が笑顔で接待していた。  鈴鹿は黒船で店員をしているが、元医者で、本人曰くかなりのヤブ医者だったという。あまりのヤブ医者加減に両親に怒られ、現在は大学院に入り直して研究者としての道を模索しているらしい。  鈴鹿は御調の友人でもあったようで、この店で働いているのは、御調の帰りを待っているからだという。  黒船のウェイターは鈴鹿と俺の二人の時が多く、時折、雪谷も手伝ってくれた。駿河は、カウンター席にいて、バーテンダーをしていてウェイターはしない。駿河はツッコミが激しいので、返事以外は何も喋らずに仕事をしていろという、雪谷の配慮らしい。
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