第一章 黒船

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第一章 黒船

 駅から続く長いトンネルのようなショッピングセンターを抜けると、オフィスビルが立ち並ぶ。快晴の空に伸びる建造物の群れは、現代に群がる恐竜のような感もある。 「朝だ!急げ!」 「これ以上、急げるか!」  駅から放射状のように道が伸び、オフィスビルの切れ目あたりからは、四車線の国道が走る。町はそこで終わりではなく、通りの先には古い町並みがあった。駅の反対側には、古い路地の続く商店街もあり、新旧入り混じり淘汰を重ねる。ここは、混沌の街であった。  そして、立ち並ぶオフィスビルの一つであるKUROHUNEは、群を抜いて綺麗な建造物であった。  KUROHUNEの外観は、全体的に黒を基調としているが、モザイクのように素材が入り組み、かつ、良く見ると多数の色が混在していた。作りはレトロな重厚さと落ち着きがあり、古いが新しいというような、懐かしさと新鮮さを持っている。 「でも、急げ!!」  俺、遊佐 八起(ゆさ やおき)は、駅の改札前を走り過ぎ、KUROHUNEに向かって走っていた。 「あ、もう、こんな時間だ……」 「もたもたと、話し込んでいるからだ!」  早朝の為、シャッター街となっている駅二階改札から直結するショッピング街を抜け、そのまま通路を走る。早朝でも、出勤する人が到着し始め、駅は目覚めるように賑やかになってゆく。  通路から、同じく二階で繋がる建物の中に入ると、正面には、建物の中に建物がある空間が出現する。ガラス窓の中に存在する古い建物は、昔の銀行で文化財であった。  その文化財を保存しつつ、KUROHUNEは建物を建てた。
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