296人が本棚に入れています
本棚に追加
「いらっしゃいませ。お二人様ですね、お席にご案内いたします」
黒船は地下にあるので、窓が無い。だが、圧迫した雰囲気がないのは、中央部にライトアップされた木が存在するせいだろう。水槽のように円筒の何に存在するのは、切り取られた森林のようで、苔に覆われた倒木には新しい芽が生えている。更に小さな草花もあり、そこだけ森の中になっていた。
その奥にある壁には、本棚があり、古い革製の本が、天井まで続いていた。レトロな本棚で、スライドする梯子も付いていた。床は木目で、カウンターの奥に並べられた酒が無ければ、図書館という雰囲気もあった。
入ってすぐの壁には、昔の金庫の思い鉄製の扉があり、このミスマッチのような積み重ねで、黒船は奇妙な統一を果たしていた。
「メニューが決まりましたら、お呼びください」
俺が客を案内して戻ろうとすると、ヒソヒソと話す声があちこちから聞こえてきた。何かあったのだろうかと、首を横に振ってみると、女性客が皆、出切り口付近の席を凝視していた。
「鈴鹿さん、有名人でも来店しているのですか?」
料理を運ぼうとしている鈴鹿に声を掛けると、雪谷が寄ってきた。
「凄い美形のお客様が来ている。それで、騒めいているわけだ」
しかも、その客は兄弟で美形のようだ。
「へえ、あっちの席ですね……え???あれえ???兄ちゃん??」
「え?八起ちゃん、兄弟いたっけ?」
兄と呼んでも、血が繋がっているわけではなく、一緒に育ったというだけだ。
俺は席に近寄ると、改めて確認してみた。
最初のコメントを投稿しよう!