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KUROHUNEは、ショッピングセンターと直結する二階に、小さな美術館と、文化財の銀行を見降ろせる喫茶店があり、一階にはセレクトショップのような店舗が入っていた。そして、三階以上には幾つものオフィスが入っており、エレベーターホールは早朝の今を抜かすと、いつも混雑していた。
「間に合った!」
「……間に合ってない!」
俺は、担いできたサンドイッチの山を、喫茶店金太楼(きんたろう)に入れると、急いでショーケースに並べていった。
「八起ちゃん、シンプルサンド五個」
「はい!」
並べている最中だというのに、馴染みの客は容赦なく注文してゆく。俺は紙袋にシンプルサンドを詰めて渡すと、金を受け取った。
「又、明日来るよ。八起ちゃんに会わないと、朝が始まらないからね」
「毎度、ご贔屓に!ありがとうございます!」
シンプルサンドは、トーストにバターとハム、目玉焼きを挟んだもので、この店の定番商品であった。このサンドを購入して出勤する人も多いので、店は早朝から営業している。
「八起ちゃん、こっちも五個ね!」
「はい!」
このサンドイッチはこの店で作っているわけではなく、駅の反対側の路地にある、手作りパン屋が造っていた。そもそも、この金太楼には厨房が無く、全て、地下からエレベーターで運んでくるか、パン屋から購入してくるものだ。
「八起ちゃん、三個!」
「はい!」
早朝はテーブル席には客を入れず、ショーケースのみで営業し、九時になると金太楼の店員がやってきてチェンジする。
「八起ちゃん!!二個とコーヒー」
「はい!」
コーヒーはポット販売していて、オフィスの従業員が契約しているものだ。
「八起ちゃん、こっちもコーヒー。それと五個」
「はい!」
もはや、シンプルサンドは数量しか言われない。他のサンドイッチもあるのだが、皆の目当てはシンプルサンドなのかもしれない。
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