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「八起ちゃん、超シンプルサンドと、コーヒー、あと三個」
「はい!」
超シンプルとなると、卵を抜いたものだろうか。適当に作っていると、客が笑っていた。
「八起、そんなメニューはないよ」
「そんな気がした」
一緒にバイトをしている駿河 太一(するが たいち)は横で、淡々と客をこなしている。俺の所に来る客のみが、俺の名前を連呼し、慌てる様を見て笑っていた。
「八起、ご苦労様。駿河もね」
俺に声を掛けたのは雪谷(ゆきや)で、身なりのいい紳士のような雰囲気をしているが、まだ若い。そして、株のトレーダーであり、裏の家業も持っている。雪谷は、金太楼の店長をしているが、これで生活しているわけではないのだ。
「八起、駿河。学校に行っていいよ。それと、駿河、真面目に勉強しろよ」
「はい!」
雪谷はレジに入り、他のバイトがやってきていた。
「余計なお世話です!」
駿河は不貞腐れたような顔をして、鞄を手に取った。駿河は、俺と同じ年の大学生で、事情があって一緒にバイトしていた。
「それと、八起、駿河、仕事が入っているから、学校が終ったら早めに来いよ!」
俺と駿河は、金太楼のバイトの他に、雪谷の裏の家業からも仕事を請け負っている。
「はい」
「分かりました」
俺はシンプルサンドの売れ残りを袋に詰め込むと、用意しておいた荷物を背負い学校へと向かおうとした。
「残り、貰ってゆきます!」
「ああ、朝食にしていいよ」
シンプルサンドは、基本、早朝メニューで、雪谷がやって来ると、下の厨房で作成する普通のサンドイッチに切り替わる。
「行ってきます!」
「おう。車に気を付けて。それと、悪い大人に付いてゆくなよ。それと、誘拐されるな、怪我するな………恋人が出来たら、真っ先に俺に相談しろ……それから……」
雪谷は、過保護なのではなく、かなりのスパルタであった。しかし、俺を預かっているという責任感から、注意がとても多い。
「雪谷さん、俺は大学生ですよ……」
俺は雪谷に手を振ると、再び駅まで走った。
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