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俺は大学が終ると、KUROHUNEの階段を降り、地下にある黒船のドアを開けた。黒船には準備中の札がかかっていたが、厨房にはコックの寿村が来ていて、舌打ちしながら開店の準備をしていた。
寿村の趣味はギャンブルで、それは既に、趣味ではなく本業のようになっていた。今も寿村は耳にはイヤホンをしていて、何かの中継を聞いていた。時折、寿村が舌打ちするのは、勝っている時で、ご機嫌なのに舌打ちはするのだ。
カウンター席には雪谷が、既に到着していた駿河と話していて、二人は同時に俺を見た。
「お帰り、八起。今日も無事でよかった……」
雪谷は黒船の店長でもあるが、金太楼の店長でもあった。しかし雪谷は、金太楼の方は朝だけ顔を出すとバイトに任せて、日中は眠り、夜になると黒船にやってくる。
「遅くなってすいません。雪谷さん、探し人は誰ですか?」
黒船は人探しを請け負っていて、それは生死を問わない。そして、死に至るまでの事情のみでも、調査していた。
「八起……怪我とかもしていないよね?八起に何かあったら、オーナーに顔向けできないからね」
オーナーの御調は、現在、連絡が取れなくなっていた。
「御調さんとは、連絡が取れないのですか?」
「まあね……」
まず、オーナーを探す事が優先なのだと言いたいが、それは雪谷達、ベテラン勢がやっているらしい。
「客は、この店に来た女性でね……まあ、深刻な顔をしていた」
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