第一章 黒船

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 黒船は、日中は厨房だけ使用され、金太楼の料理や飲み物を作成し、エレベーターで上に運んでいる。夕方からはレストランになり、深夜になるとバーになる。  その女性客は、深夜にバーのカウンター席に座り、一時間ほど一人で飲むと、雪谷を捕まえ人探しをして欲しいと泣きだした。 「探して欲しい人は妹だそうだ。しかし、いなくなったのは二十年前。妹は当時七歳」  黒船が人探しを引き受けるのは、事情がある場合のみで、普通の行方不明では引き受けない。それは、黒船自体も人を探していて、それが普通の失踪ではなかった事に由来する。  黒船は、失踪についての、どんな些細な情報でも欲しいと願い、更に独自で調査をしていたので、特殊な人探しをするチームとして知られてしまったようだ。 「依頼してきた女性の名前は戸隠 美里、妹の亜利沙を探して欲しいそうだ」 「二十年前の失踪ですか……」  二十年前、戸隠家は、夫側の家の建て替えで、両親との同居に踏み切った。  そして同居してから三ヵ月が経過し、美里はやっと新しい学校にも慣れ、友達もできた。  だが妹の亜利沙は、おっとりとした性格で、学校に行くにも迷子になり、泣いてばかりで友達も出来なかった。 「学校から帰ってきた美里は、友達と公園で遊ぶ約束をしていた。そこで、家に到着すると鞄を部屋に置き、祖母に声を掛けて出かけようとした。祖母は、亜利沙も一緒に連れて行けと言ったが、美里は首を振った」  美里は新しい友達に、妹の面倒を見ている姿を見られたくなかった。そこで美里は、亜利沙が靴を履いている隙に、走って公園に向かった。  亜利沙は靴を履くにも時間がかかり、更に、走る事も遅かった。そして公園は広いので、見つけられずに諦めて帰るだろうと、美里は考えたのだ。
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