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「私、盗んでみたいものがあるんだよね!」
陽が傾くオレンジ色の教室で、瞳をきらっきらに輝かせながらサヤカが言った。
サヤカは器用に椅子の上であぐらをかき、背もたれに両手を乗せている。サヤカが話しかけた相手、シズカは、両足をきちんとそろえて座り、机の上に広げた数学の問題集にシャープペンシルを走らせていた。
「へえ」
顔を上げず、無気力に答えるシズカ。
「反応うっす!」
サヤカの声が少し高くなった。教室にはサヤカとシズカ以外は誰もいないから、声が響く。
窓際の真ん中、縦に並んで座る二人。サヤカのポニーテールが夕日を受けて橙色に輝いている。対するシズカの席は、窓枠の影になっていて、額の真ん中から唇の左端にかけて、斜めに明るかった。
「だって興味ないもの」
シズカは問題集から目を離さない。
「興味持ってよ! 親友が窃盗しようとしてるんだから」
サヤカは大きな声で注意を引こうとするが、シズカの視線は問題集に釘付けである。
「どうせ大したもの盗まないんだろ?」
「いーや、大したもの盗むね」
「すごい自信だね」
シズカの目がわずかに上を向いた。
「お、興味持った?」
「全然」
サヤカが嬉しそうに身を乗り出すと、シズカは机を自分の方に引き寄せた。ぎごー、という音が反響し、サヤカは顔をしかめる。
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