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白い。
最初の感想はひと言だ。地下にある真っ白な箱のなかをぐるりと見渡せば、一カ所だけ反射した顔が見える。随分コケたな、ふっくらした美形はどこへやら……ではなくて。ここが管理室か。
「部屋に入ったらすぐマジックミラーを見つけてください。見つけたら挙手で教えてください」
まるで歯科医院の、痛かったら手を挙げてくださいね、と同じような口調だった。言われたとおり手を挙げて、小指ほどの指定のイヤホンを耳に掛ける。「十、九、八……」とカウントダウンが始まって、そっと目を閉じる。虫の羽音に似た機械音が通り抜け、顔の前に膜が張ったような感覚になる。ぷしゅーと気の抜けた音が甘い香りをうっすらと運んできた。映像がより鮮明に見えるよう、スモークがもくもくと焚かれる。
「三、二、一、どうぞ故人の声をお聞きください――」
案内通りに目を開けて辺りを見渡せば、広がる景色は懐かしい田んぼと畦道だった。
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