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「こっちさ、こっち」
真後ろに人が立っていた。
「うわあ!」
「ちっ、ぬぼーっとしてんな。元気だったかミヨ」
叔父の声は記録より低い。
「叔父さん、わっか」
うるせえ、と悪態をつく。ここ、遺言所の拝聴室では、お互い好きな年齢に姿を変えられるのだ。
正直、本当に叔父からお呼びがかかるとは驚いた。所帯を持たない叔父は、父が本家を継ぐまで――たぶん私が五歳くらいまで――アパートで一緒に暮らしていたけれど、父が本家に戻されてからはすっかり疎遠だった。親戚は「ミヨはカズヒロに懐いているね」と口を揃えて言っていたけど、尖った言葉の中身は空っぽだ。空っぽなことしか言えないから、叔父は愛想を尽かして出て行ったのだ。
「遺言は初めてか」
「う、うん」
あまりにもリアルな感覚にうっかり触れそうになる。でも触れられるわけがない。姿も景色も音声も、全てAIが写し出した仮想現実だからだ。
「若い頃にしてもらったんだ、イカすだろう?」
調子乗りなところは変わらない。よく見ると、開衿シャツはくたくたで深緑のスラックスにインされている。一緒に暮らしていた頃の姿だ。
「ねえ、叔父さん」
「ああん?」
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