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「それは……考えて、ください」
「ふうん。なるほど?」
めぐみは口端を持ち上げるようにして笑った。少しだけ、仕返しになっていればいい。そう思いながら、彩里も笑い返した。
「好き。めぐみさん、 」
まんがの作画作業において、真っ白い吹き出しを描くのが、どうしてだか彩里は一等好きだった。いつからか彩里は生身の自分においても、吹き出しを膨らませるつもりで息を吸い、吐いて、言葉を発している。
ふわりと丸い風船に、写植は後から貼られるもの。そして妄想屋の数だけ、意味や解釈が上書きされていく。本当の中身のことなど、知られないまま。しかし、その中身は、薄くて柔軟なゴムの膜にまもられ続けている。
同人といったところで、まったく同じひとなど、仲間内にも存在しない。
風船は、贈り先を求めて断絶の国境を越え、宙を漂う。
物語は、進む。
了
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