11/13

10人が本棚に入れています
本棚に追加
/42ページ
 めぐみほど仲よくなったひとではないにしろ、インターネット上で知り合ったひとと、いつの間にか疎遠になっている、というのは、頻繁に起こりうることだった。それも仕方がないことと思いながら、準決勝進出が決まった時、諦めきれずに、会えませんかとメールを送った。そうしたら、間髪おかずに快諾の返答がきたのだった。  仕事を早めにあがって東京駅に駆けつけてくれためぐみは、淡いグレーのパンツスーツ姿で、まとめた髪や色味の少ない化粧が私服姿の時よりも近づきがたい印象を醸し出していたが、相変わらず、瞳の奥の表情は優しかった。 「彩里ちゃん、久しぶり。大人っぽくなったね。少し痩せた?」 「はい。練習でカットフルーツが大量にできるから、片付けてたら、結構満腹になりがちで」 「ええ? まさか毎食フルーツとか言わないよね?」 「それはないです。昼はちゃんとお弁当とか食べてます」  頭の上で、溜息をつく気配があった。彩里が見上げると、めぐみは弱ったような顔で笑みを浮かべ、ぎゅっと抱き締めてくる。 「……まったく。ほんとに、がんばってきたんだね、彩里ちゃん、えらいな」  ぽんぽん、と背中を軽く叩かれる。  午後七時過ぎの八重洲口中央のキヨスク前には、カートを引いた旅行者やサラリーマンの群れが忙しなげに流れをつくっていた。誰も、いちいち他人のことなど気にしていない、ということは頭でわかっていても、一般的に、これはどういうふうに見られるんだろう、と想像すると、次第に、ぽかぽかと体が発熱しているような錯覚に襲われる。 「め、めぐみさん、たら……、すぐにこども扱いする……」 「違うよ。むしろ逆。彩里ちゃんのことだから、きっと一生懸命やってるんだろうなとは思ってたけど。予想よりもずっとがんばってて。年上として、ちょっと焦るくらい。でも、尊敬する、彩里ちゃんのこと。コンクール、お疲れ様」  まんがのことに限らず、めぐみに認められるのはなんだって嬉しく感じられた。が、素直に喜色を浮かべるのはどうしてだか憚られて、彩里は小さな声で礼を言うのが精いっぱいだった。  どこかにゆっくり腰を落ち着けるような時間はなく、ふたりは大丸のレストラン街の中の洋食店でさっと夕食を取った後、慌ただしく中央改札の前に戻ってきた。
/42ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加