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 しばらくぶりだったにもかかわらず、まったく以前と変わらない距離感で話すことができたぶん、余計に彩里はさびしくなってしまい、帰りたくないと、めぐみにぐずぐず泣きついてしまいそうなのを、必死に堪えなくてはならなかった。戯言を義務感で圧し潰して強がりを言おうとすると、どろりとした卑屈がこぼれる。 「なかなかネットにもつなげないですけど。わたしのことも、気が向いたら、たまには思い出してくださいね」  社交的なめぐみのこと、代わりはいくらでもいるだろうけど――と、物分かりのいい振りで物欲しげな言葉を発して嫌らしい笑みを浮かべていると、強い視線を、正面から、まともに食らってしまった。 「私は、彩里ちゃんのこと、忘れたことなんて一日もないよ」 「……あ……」 「邪魔したら悪い、とは思ってる。疲れてるのに、無理もして欲しくない。でも、彩里ちゃんと話したい気持ちに変わりはないよ。一緒にいて楽しい。そう思ってるってこと、伝えきれてないかな? 私」  抑えた声だからこそ、めぐみの虚偽のなさが、胸の中まで響くように伝わってきた。彩里の中で、罪悪感が渦巻くものの、どう弁明したらいいのかわからず、声が喉で固まった。 (わたしときたら……もう二十五だっていうのに、こんな、友達付き合いのひとつも、満足にできないままで、本当に……)  小学生でも、今の彩里よりは、よほど気のきいた言葉を言えるだろう。きっと簡単なことだ。  ごめんね、と言う。ありがとう、と言う。ずっと友達でいてね、と言う。大好きだよ、と言う。私も、と言われたらそれを信じる。手をつなぐ。笑い合う。……それだけの、ことだ。  それが、彩里にはできない。 「……すみません。めぐみさん。すみません……」  これまでのツケが回ってきたのだ、と思った。なにもかも物語のキャラクターに代行させてきたから、生身の肉体は傷を恐れて、肝心な時に一歩も動けやしない。  ひととの絆など、儚い、どうせ失うもの、と、彩里は刷り込みのように信じていて、だから一度も大切にしてこなかった。そして粗雑に扱ったものは、壊れる。当然だ。ほら、やっぱりね、と言っているうちはひとり遊び。――しかし今、目の前には、めぐみがいる。(いつも本当は、誰かがいた。)失いたくない、と思っている。 「……彩里ちゃん」
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