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「東京に来れば?」  一通り話を聞いた後、めぐみはおそらくわざと軽い調子で、彩里を誘った。その言葉も発言者によっては微妙に地雷になるところだったが、めぐみが相手だとふしぎと腹が立たない。 「簡単に言いますけどね……」 「うちに来る?」 「だからね、めぐみさん、そんな簡単なことじゃないんですってば」 「どうして? なにが問題?」 「生活していけるか……。家賃も物価も、そちらはだいぶ高いんでしょうし」 「そんなに違うかなぁ。とりあえずは、うちのマンションで寝起きしたらいいじゃない。広くもきれいでもないけど、ひとり寝るところくらいなんとでもなるし。引っ越してもいいし」 「そんな、気軽にできることじゃないです。いつ就職が決まるか、なんの保証もないし」 「彩里ちゃんの経歴なら、ぜひ来て欲しいって一流どころがいっぱいあると思うけどな。それはそれとして、別にすぐに仕事決まらなくっても、私は、彩里ちゃんなら大歓迎」 「他人と暮らすのって、結構気を遣いますよ?」 「それもさ。彩里ちゃんが大学生の頃、一回泊まりに来てくれたじゃない。若いのにちゃんとしてるなぁ、って感心して、だから彩里ちゃんとなら全然大丈夫だと思ってるんだけど」 「……恐れ入ります。心配かけて、すみません。大丈夫です、このままなんとか、やっていけなくはないんです。つまらない愚痴を聞かせてしまって……」 「そういう話じゃないってば。ねえ、私、彩里ちゃんのこと好きよ」 「ありがとうございます」 「あー、もう、ほら、そういう。ねえ、だから、つまり特別にっていうこと。力になりたいんだけどなぁ、どうしたら甘えてくれるんだろう」 「充分元気づけてもらってますよ」 「そうじゃなくってだよ……」 「お気持ちはすごく嬉しいんですけど。返せる保証もないのに借りをつくるのは」 「出世払いでいいよ」 「出世なんてしません」 「……うう、私が男なら、身体で返して、って言えば解決しそうな案件なのに」
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