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「めぐみさんってばスーパー攻め様……。苦境に陥った受けをオークションで落札、的な」 「BLの王道でしょ」 「はい。でもわたしは受けみたいに天使じゃないし。めぐみさんもドSな石油王じゃない……。あ、オークションものと言えばですね、」 「いや待って待って、二次元に持っていかずにもうちょっと相談させて。ねえ、そしたらね、本当にまじめに考えてみない? だって、女の子同士でも、結婚はできるでしょ?」 「結婚?」  彩里もめぐみのことは好きだったが、恋愛感情なのかどうかと問われると、答えに窮するところがある。そもそも二次元のひと以外で、他人に恋愛感情を覚えたことがあるかどうかもあやしい。めぐみが向けてくる好感情にも、色っぽい香りがのぼったことはないように思うが。 「そう。結婚しよう。……ぼんやり考えることはあったんだ、ずっとこのままひとりでいるのってどうなんだろうって。でも結婚して、自分以外の何者かになることなんて想像できない。仕事も趣味も楽しいし。それをセーブしなきゃいけないくらいなら、今のままでと思ってたけど、相手が同じ趣味の女の子なら、というか彩里ちゃんなら、完璧じゃない?」 「……それは、もちろん、楽しそうですけどね」 「彩里ちゃんとそうできるなら、幸せだな、私。彩里ちゃんはどう思う?」 「いいですね、しましょう、しましょう」 「もう、まじめに訊いてるのに」 「どこがですか」  言われた瞬間は呼吸が止まったものの、冷静に考えてみると、めぐみの提案にはリアリティがなかった。彩里は、美人でも気立てがいいわけでもない自分を結婚相手に望むひとなど現れないという前提で生きていたので、結婚というものをリアルに想像したことはなかったが、それでも、それは冗談で口にしていいことではなく、もっと堅実な計画に基づいた、覚悟と責任を伴うものであって欲しいと、半分無意識の願望を抱いている。かつて、父親の再婚を快く受け止めるために、幼かった彩里は自分の心を、かなり意識して再構築したのだ。 「それに、このお話、めぐみさんにはなにもメリットがないですよ」 「彩里ちゃんといると楽しいんだから、一緒に暮らせること自体が利点でしょう? あと、実は、私、海外旅行に行きたいんだ。出張でしか行ったことないから」  そんな理由、とは、彩里は思わなかった。むしろ心惹かれた。 「そうか……仕事してると、長いお休み、取れませんもんね。新婚旅行くらいの口実がないと。わたしもフランスの田舎のワイナリーレストランとか、行ってみたかった」 「ね。行っちゃう? 一緒に」  彩里はあいまいな笑みを浮かべ、返事をしなかった。結婚に対してはそれほどイメージが湧かないので茶化すこともできたが、フランスには本当に行きたいと思っていたので、ノリで答えることがどうしてもできなかったのだ。
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