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(それともわたしは、めぐみさんの機嫌を損ねて、生活の安定を捨てたくないだけ? ……純粋な友情じゃないぶん、もう、わからない)  断絶の兆候、まだ浅い窪み。遠くから見るだけなら、わからない程度かもしれない。しかし、彩里とめぐみは一緒に暮らしている。生活排水を流し込んだ窪みは、きっと次第に悪臭を発するどぶ川になるだろう。  やはり、結婚など、するべきではなかったのだ。彩里の愛する聡明な偶像たちも、一度もそんな愚かな真似はしなかった。  マイナス思考に取り憑かれた彩里の瞳には薄く涙が張っていたが、目のふちを越えて流れ出すほどの量はない。にもかかわらず、めぐみはそっと彩里の頬に手を当て、親指で目の下をなぞった。涙声に聞こえたのかもしれない。しかし、何度なぞっても、そこは乾いた感触しかしない筈だ。 「……めぐみさん。わたし、こわい」  つらいなぁ、と思った。強くなるきっかけも得られないまま、薄汚れ、錆びていくばかり。なにもかも振り捨てて走っていく男の子にはなれないし、背中を預ける盟友だってつくれない。その上ぬるい愛を美味しく食べることも、与え返すこともできないなら、いっそ潔い拒食の末、死んでしまいたいとさえ思う。できないけれど。  それともここで、キャラクター設定を無視してつがいでもしてみたら。  なにかが始まるとでも言うのだろうか。 「なにがこわいの? 彩里ちゃん」 「めぐみさんと、一番の友達じゃいられなくなることが」 「いられなくなるの?」 「……勝手を言っているのは、わかっていますけど。めぐみさんにとって一番麗しい嫁ちゃんを描くのも、一番楽しい萌え語りをするのも、わたしじゃなくなってしまう。そうしたら、一緒にいる意味が……」 「なくなるわけないでしょう。ばか。別に、絵を描かせるために籍入れたわけじゃない」 「それはそうかもしれませんけど……。じゃあ、どうして?」
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