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「一緒にいるのが楽しいから。彩里ちゃんのことが、好きだから。初めて一緒に暮らしたいと思った子だから」  なにか文句でも? と、めぐみの顔には書いてあるような気がした。文句はない。けれど。 「だから、その、好き、の内訳……です。一緒にいて楽しいのは、ジャンルの話ができるからではないですか? めぐみさんが好いてくれた、がんばり屋のわたしは、もう戻ってこないかもしれません。サーヴィスで、もう一度結果が出せるとも思えない。わたしは、いつまで、めぐみさんの好きなわたしでいられるんですか?」  そして、あなたはいつまで――。  流石にそれは口に出さなかったが、沈黙の後、むぎゅ、と突然鼻を摘ままれる。 「ばか」 「…………」 「ガキ。心配性。そんなこと今から考えてどうするの。嫌いになった時考えるよ」 「それじゃ遅いです。心の準備ができません」 「させないよ。傷つきなさい、その時は。それくらい、配偶者の情ってものでしょうが」 「…………」 「傷つけないよ、簡単には。あなたみたいな脆い子を。嫌われたって平気、簡単には離さない」 「嫌なことも我慢してくれるってことですか。倦怠期の夫婦みたいになっても、惰性で、」 「…………」 「……すみません。自信がないんです。わたしが、わたしの中身に」  めぐみの強いまなざしを浴びると、まるで目の前に鏡が現れたように、今、自分がどれだけ汚い表情をしているのかを思い知らされる。彩里は俯いて謝ることしかできなかった。  キィ、と軋むような音がして、視界が揺れる。めぐみが、彩里の乗っているブランコを揺らしたのだ。こんなふうにして、いつか女友達と遊んだような気もするが、その子の名前は、思い出すことができない。しかし、ゆらゆらと軽く前後に揺らされているうちに、波打っていた気分が凪いでいくのがわかる。うまくいなされているなぁ、と思うと、情けなかった。
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