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「大丈夫、大丈夫」
「なにが、大丈夫なんですか? めぐみさん。口先でごまかそうと……」
「ごまかす気なんてない。あのね、十年前にあなたが心配していたようなことは、なにも起こっていないでしょう? 十年先も、同じこと。大丈夫。……私たちは、二次創作屋だから」
「……めぐみさんの言っていることが、今日は、全然わかりません」
「そうだろうね。そういう日も、あっていいんじゃない。時々は。妄想の余地があって」
うまく煙に巻かれている、という気がしたが、ブランコの上でゆったりと揺られているうちに、疲れていることを思い出していた。めぐみはこれ以上この話題を突き詰めるつもりはないようだし、彩里も彼女の態度に拍子抜けしている。今日のところは、早く家に帰って、風呂に入って、休んだ方がいいのだろう。なんといっても、明日は仕事だ。
「よくわかりませんけど、……わかりました」
彩里はそう言って、ブランコを降りた。それが合図だったかのように、ふたり揃って、公園の出口に向かって歩き出す。ぎこちなく、どちらともなくつないだ手は、やはりあたたかかった。住宅街の細い路地を歩きながら、めぐみがふいに、話題を戻す。
「やっていけるよ、きっと。いわゆる既定路線の子持ち夫婦だって、こどもが独立して――共通の推しがいなくなって、話題がなくなって熟年離婚するひともいれば、しないひともいる。やっていけなければ、だめになるだけ。でもそれまでは、弱いふたりで美味しいごはんを食べよう」
「それは……比喩ですか? 言葉通りの意味ですか?」
「解釈は、任せる」
後者だったら、料理の腕をあげる必要があるだろうか、と思いながら、意味深な言葉を一方的に宿題のように与えられるのが不満なので、彩里も別の話題を持ち出した。
「めぐみさん、私の新刊の、ラストシーンの吹き出し。あれ、泡沫じゃないです」
「へえ。じゃあ、なに?」
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