終章

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終章

ここまでの物語は、実は私が書いたものでは無い。 別に、誰かの作品を盗作したとか、二次創作であるとか、そういう事ではない。 私に、託されたのだ。この、住原かなえに。 何を言っているのかさっぱりであろうから、事の顛末を軽く説明しておく。 私は2020年の9月頃に、拙作『陰謀のブルースカイ』を書き上げ、ネットで投稿を始めた。この作品は、結末にも特に工夫を凝らした作品で、私の自信作だ。ここで厚かましく、読んで欲しいなどとは言わないが。本作は全40話から成る話で、毎朝6時に一話ずつ投稿されるように設定してあった。 投稿は9月1日から始めたので、丁度10月10日に投稿が終了した。 無事全話の投稿を終え、一息ついている所に、一件の通知が鳴ったのだ。 Twitterだった。小説用のアカウントに、一件の通知が来ていた。DMだった。 『陰謀のブルースカイ読みました!凄く面白かったです。』 私は自分のマイページに、TwitterのIDを載せているので、そこから来たのだろうと分かった。 ありがとうございます、と返事をすると、 『次回作を期待してます!そんな住原先生に是非お渡ししたいものがあるんですが…』 何だ行き成りと思ったが、一応何ですかと聞いてみると、 『それが、ちょっとここでは説明し難くて…ですから、直接会ってお渡ししたいんですが…』 最初は断ろうかと思ったが、拙作を評価して頂けた事が嬉しかったのか、私は快諾し、日程を取り決めていた。 そして、約束した日に男は現れた。指定したのは、近くの公園だった。 男は一通り挨拶を済ませると、カバンの中から分厚い原稿用紙を取り出した。 「これが、例のお渡ししたいものです」 「その、原稿用紙がですか?」 愚かしくも、何か高価なモノをプレゼントして貰えるのかと期待していた私は、少しがっかりした。 「そうです。この原稿用紙は、私が書いたものでは無いんですが、作家である住原先生に、これを是非、ネットに小説としてアップして頂きたいんですよ」 「私が、ですか?」 「はい。私は電子機器が苦手なものでして…是非、住原先生に、と」 幼稚にも、先生と呼ばれた事が何だか嬉しかった私は、特に考えもせず原稿用紙を受け取ったのだった。 分厚い原稿用紙の内容は、ジャンルで言えばホラーだった。ただ、ミステリ要素も齧ってはいる。 内容は特におかしなところも無いし、それなりに中身のあるものであったから、これはネットに投稿しても良いだろうと判断した訳だ。適当にそれらしいタイトルを付け、原稿用紙には、序章があるのに何故か終章が無かったので、終章として、一応私の後書きを付けておく事にした。 というのが顛末なのだが、後から考えると、何とも奇妙だ。 そもそも、私は小説を書いていると言えど、あくまでもネットで細々と投稿しているだけで、作家を名乗るのは、とてもでは無いが恥ずかしくて出来ない。幾ら拙作を評価したからといって、名も知らない様な超三流の人間に、原稿用紙を託すのは、何だか妙だ。 それに、拙作『陰謀のブルースカイ』は、ホラーでは無く、魔境とも呼べる島を舞台にしたミステリやファンタジー要素の強い作品であるのだ。それを読んで、私にホラー系の原稿用紙を渡してくる、というのは、筋違いな気がしないでもない。 最も奇妙なのは、原稿用紙を渡してきた男の事を、全く思い出せない事だ。 公園で確かに顔やその姿を視認した筈なのだが、前述した会話の内容くらいしか、思い出せない。とはいえ、それがどのような声であったかも分からない。どんな服を着ていたか、背はどのくらいか、顔の特徴は、名乗っていたなら名前は、などが何もかも分からない。男であったことは間違いないだろうが、それ以上の事は何も分からない。私にDMを送って来たTwitterのアカウントも、いつの間にか削除されてしまっていた。 つまり、誰かも分からず、音信不通である人物から受け取った原稿用紙を、掲載する事になる。 私は何だか気味が悪くなり、投稿を躊躇ったのだが、折角受け取ったのだから、託してくださったのだから、とも思い、掲載する事にした。というより、逆に、何だか投稿しないと落ち着かない気分になったからだ。これは、自分にもよく分からない。 本当はこの話は序章に入れるべきなのだろうが、序章は既にあったし、終章が無いのがどうにも気持ち悪かった。完成されていないような感じが、気になってしまったのだ。前書きとして序章をずらす事も出来たが、この原稿用紙に、いらぬ訂正を加えるのは何故か躊躇われた。 私からの話は以上だ。 もし、読者の中にこの交番について何か知っている者がいれば、遠慮なく私に教えて欲しい。というのは、不思議なことに、読んでいるうちにこの交番を見つけてみたいという気持ちも湧いたからだ。 そして、この原稿用紙を託してくださった方が、この小説を読んでいるのならば、是非名乗り出て欲しい。
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