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このところ、眠ってばかりいる。
眠って見ている夢と、起きた時の現実と、それから、目は覚めているのだけれど、ぼんやりと、過去の記憶、現在の妄想、それから未来の幻視、いやこれも妄想か、これらが浮かんだり消えたりして、何だか分からなくなる。
別に病気になったわけじゃない。
新型コロナウイルス感染拡大で高校が休校になり、しばらくして塾もインターネットに切り替わり、外出するなと言うことになり、家に籠った。
家族と一緒にリビングにずっといるのは何だし、自分の部屋でスマホをいじっていて、ついついダルくなってベッドに寝転がって、それでしばらくすると眠くなってくる。そんな時に、わたしを妨げるものは何もない。
それで、--寝る。
それでも、数えてみたら、だいたい一日10時間か11時間くらい。一日の半分以上は起きているのか。
ただ、休校になる前は、朝練、授業、放課後の部活、塾、宿題が学校のものと塾のものと出て、隙間の時間でピアノ弾いたりで、睡眠時間は4時間か5時間だった。日曜も試合があって、試合がなければ友達と買い物に出かけたりで、やっぱり、そんなには寝ていなかったような気がする。
その溜まりに溜まった睡眠不足を一気に解消!
という感じで、休校になった当初はひたすら寝ていて、――そのうち、それが日常になった。
わたしは、閉じこもり生活におそろしいほどに順応した。
ああ、もう睡眠時間4時間の生活には戻りたくない、戻れない。
このへんの本音を、どこまで友達に伝えるかは微妙だ。
休校期間中も、SNSで常に友達とは繋がっている。だけど、SNSでのマジョリティは、早く解除になって学校に行きたいね、みんなと会いたいね、部活やりたいね、のノリなので。
ここで、もとの生活に戻るの嫌だなんてことは、言えないのだ。
それでも、気の置けない何人かには、本音を匂わす。
「寝てばっかりいるよー」
と書き込むと、
「早起き無理!」
とか、
「わたしもー」
とか、返事が来る。
ただし、そこから一足飛びに、
「もう学校いらないって感じ」
とまでは、書かない。書けない。
だって、緊急事態宣言が解除されて、もうすぐ学校が再開するから。
実際、わたしはずっと、休まないオンナだったのだ。
小学校時代、水泳にピアノにバレエに塾。中学受験ではお正月も返上した。晴れて中高一貫の女子校に入ってからも、うちの学校で一番強い運動部であるところのバレー部に入った。バレー部だけじゃなくて、合唱同好会、それから、図書委員会。どれも結構真面目にやった。文化祭では、自分の出番と当番でスケジュールが埋まり切り、他を見ることが全然できないくらい。高校に上がってからは、ここに塾が追加された。毎日、分刻みのスケジュールって感じ。
病気にでもなれば少しはゆっくりできるんだろうが、わたしは体が丈夫だ。インフルエンザにもかからない。だから、ずっと、全力疾走している感じ。
それでも、ずっと過去の記憶を探っていくと……、本格的に寝込んだのは小学生、水疱瘡にかかった時まで遡るんだろうか。
マジか。
わたしが、今みたいに、ぼーっとして、寝てばかりいて、のんびりしているのは、小学生の時以来の珍事なのか。
それで、わたしは、ちょっと考え込んでしまうのだ。
何で、こんなに忙しくしているんだったっけ、と。
「わたしって、何で、こんなにいろいろ手を出しているんだっけ?」
とSNSで呟いてみる。
程なくして、リプが来る。
「ミク、だいじょぶか?」
とか、
「リハビリ必要」
とか、
「だって、それはミクだからじゃね?」
という友人たちのコメント。
むむむ?
それで、わたしはまた混乱する。
ミクだから、とは?
いったい、わたしとは何者だと?
「ミクは、とにかくガンガンやる人でしょ?」
そう、確かにそれはそうなんだけど。
物事一つ一つについて考えて意味を付けようとする人と、そうではなく、ただ突っ込んでいく人とがいる。わたしは後者だ。
そこにピアノがあるからピアノを弾いたし、中学受験というものがあると知ったからベストを尽くしたし(それで、わたしの学力で届く最高偏差値の学校に進んだ)、バレー部が強いって聞いたからそこに入ることにした。
だけど世の中はだんだんフクザツかつヤッカイになってくる。
大学受験は、そこに大学受験があるから受ける、というワケにもいかないようなのだ。なぜなら、大学で何を専門に学びたいかで、受ける大学も学部も違ってくるし、何を学びたいかは、その先の職業選択にもつながり、つまりは人生というものにもつながっていく。そんな先のことなんて、分かるはずがないし、それに、今やっている勉強にそうした意味付けをする、みたいなことは、わたしのやり方ではない。
結果、何か、もやもやしたものが残る。
残ったままでも、わたしはとにかく、4時間睡眠の日々を送っていて、――それが突然に休止した。
一部の回遊魚は泳ぎを止めると死んでしまうという。
もやもやがどんどん膨らんでいく中で、わたしは死んだ魚、あるいは思い切り美化すれば、森の奥深くの眠り姫になった。もう森から出て、4時間睡眠の娑婆には戻れなくなった。
わたしは、ベッドに突っ伏す。
ちょっと、未来でも妄想してこよう――。
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