畏怖のなか、切望

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「ほら。つばめ、おれといるとあーゆー勘違いしたやつが増えるからやめとけ」 「ちょっ…声、大きいよ」 「あっちと同じくらいだろ」 これだから男は。わたしはこめかみを抑えてうなだれる。 あの女の子たちは「守ってもらってるー」「本当なんなの?」なんて言いながら階段を駆け上がっていった。 榛名はわたしの顔を見て、頰を弱いちからでぺちんと叩いてきた。わたしはこの後に彼の口からこぼれる言葉をよく知っている。 「話しかけて悪かった。…じゃあ教室で」 同じ教室に行くのに、なんてあほらしい。だいたい話しかけたのはわたしからなのに。 遠ざかっていく背中に、今度はもう、簡単には触れることはできなかった。 教室に入ると榛名は前の方の自席に集まってきた男友達と談笑していた。そこから一番遠い窓際の一番後ろの席に座る。 入った瞬間一気に向けられた視線はもう何事もなかったかのように元通り。 この教室の中でのわたしは、榛名とは雲泥の差だ。 気にしちゃだめだ、と思って、うつむかないよう持ってきていた文庫本を広げた。本は苦手だけど、何もしてないよりはいい。何かやっていないと、心が押しつぶされそうになる。 入学して間もない頃は、榛名ほどじゃないにしても友達だっていたし、授業前に退屈なのはおろか、怯えることもなかったのに。 あの日から、景色は真っ黒だ。
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