第5話   不釣り合いなジャズバーの客

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第5話   不釣り合いなジャズバーの客

船着き場付近で昼食をすませた梢は、昨日と同じ様なルートをたどろうと考えて、タクシーで駅に向った。暫く駅で時間を潰していたが、特に何も起こらない様子だったので、昼間は喫茶店をしているジャズバーに向かい、中を伺うと数名の客がいた。店の片隅にゴスロリ調の黒い服を着た少女が座っているのが見えたので梢は、えぇと思いつつ、メイドをしている泉に近寄り 「あの娘(こ)て、皆さん見えてる?」と尋ねると 「ああ、大丈夫、生身の人間だから、ここ数日調査とかで、来ているお客さん。何でも東京から来ているとか。」 「はー、良かった。例の女学校に纏わる現象かと思っちゃった。」 「ははは、昨日は一寸脅かしすぎたわね。」と泉が言うと 「数年前かな、ある小説家さんが、店を取材に来てその後、その人の小説に少し乗ったんだが、その時の状況を知りたいらしくてここ数日通ってきてるみたいだ。」とマスターが付け加えた。 「へー、その小説、一寸興味がありますね。」と梢が言うと 「うん、確か記念に本を貰ったんだが、何処かに行ってしまって・・・確か、『栞』とか言う題名だったかな、作家さん〇×さんだったかな?まあ、後で調べておきますよ。」 その少女は、ゆっくりとハーブティーを飲んだ後、迎えに来た運転手と思われる、中年男性と共に出て行った。  梢は先ほど行ってきた渓流での船旅の様子を泉と一頻り話した後、付近の観光名所の様な所を紹介してもらったが、 「今からだと、時間が微妙ね!」との泉の助言で 「じゃぁー。一寸街をぶらついて写真とスケッチをします。」と言うと、マスターが 「今夜、アンプの会で変わった連中が集まるんだが、参加して見ないか。」と声を掛けてくれた。 「アンプの会?」 「ああ、此奴の事さ・・真空管アンプのオタクが集まって、自慢話やら音色なんかのうんちくを話すんだけどね。」 「私、機械音痴ですけど、大丈夫かしら?」 「別に、機械のうんちくはオタク達に任せて、音色だけでも聞けばいいよ。」 「そうよ、梢ちゃんみたいな娘(こ)が居れば、オタク連中の話もはずむわよ。」と泉が付け加えたので、梢は会合の時間を確認してから散策に出た。店の外観を写真とスケッチに残した後、店から続く緩やかな坂を登り、一寸した公園の様な所に出ると、そこは、街を一望できる場所だった。しばらく眼下の街並みをスケッチしていると、少し離れた駐車場に置かれていた高級車から出てきた少女が、梢に近づいてきて 「すこし、お邪魔して宜しいかしら?」と聞いて来たので、振り返ると其処には、あの店に居たゴスロリ調の黒服を身に着けた少女がいた。 「ええ、構いませんが、先ほど下のお店に居た方ですよね。」と尋ねた梢に、柔らかな笑みで 「ええ、ここ二、三日通わせて貰っていますわ。私、こう言う者です。」と言って名刺を差し出した。 「三芳・・緑・・・アパレルミヨシ・・・」つられて、梢も名刺を出すと 「ほー・・・トコミヤショウ 絵本作家の!スケッチ旅行ですか?」 「ええ、まあ、ぶらっと・・・当てもなく出て来ちゃったんですが。」と言ってから 「あの、三好さんてあの三好百貨店の?」 「ああ、百貨店の方は、叔父が経営していて、私は主にアパレル、元は呉服問屋ですけど。」 「はあー、あの立ち入った事で申し訳ありませんが、三好薫さんを御存じですか?」 「ええ、薫は、私の従妹です。女の子ですよ。」 「ええ、知ってます。と言うか、薫さんとは、面識が有りまして・・・私の弟の許嫁・・」 「え!・・・確か檄君でしたっけ、薫の所で何度かお会いしてますけど。檄君のお姉さん?」 「はい、山本梢と申します。」 「ああ、じゃー、山下さんの家で、薫が足しげく通っている。」 「はい、兄と一緒にお世話に成っています。」 「お兄さんて、最近結婚なさった、物理学者の・・・」 「はい、哲平兄、共々三人でお世話に成っています。」 「ホント、奇遇ですね。」と二人の会話は、身の上話から始まって、しばらく続いた後に 「明日は、まだこの地にいらっしゃるの?」と緑が聞いてきたので、今夜のアンプの会の話をし、明日もあの店に居る事を告げ、再会を約束してから別れ、夫々に目的の場所に向かった。
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