サンタさん、ありがとう。

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 世界中が楽しいムードに包まれる、あるクリスマスの日。  わたしは夜中わくわくしながらサンタさんが来るのを待って、その朝に早速枕元を確認した。  そこに置いてあったのは、袋に入ったママの死体だった。  その白い袋は丁寧に丁寧にラッピングされてあって、フリルのリボンが何重も巻かれていた。  中を開けると、ママの目と口と鼻と足と手と爪と臓腑と髪が綺麗に詰められていて、わたしはこのプレゼントを見てとっても喜んだ。  だって、わたしはサンタさんにこうお願いしたから。  サンタさん、わたしに優しくしてくれるママをください、って。  動かなくなったママは何も喋らないしわたしを殴らないからとっても優しい。  ママがママの形じゃなくなっちゃったことはちょっと悲しいけど、きっとこれでよかったんだよね。  わたしは早速サンタさんがくれたママを見せようとパパのところに駆け寄って、自慢げに袋を掲げた。  それを見て、なぜかパパはわんわん泣き出した。  わたしは首を傾げながらも、そんなパパをよしよしって慰めてあげた。  ……そうしたら、パパはわたしを殴った。  ママがやったのと同じように、わたしをゴミ袋に詰めた。  そういえば、昨日、パパがママを殺したところを見た。  パパが泣き叫びながら、ママを袋に詰めるところも。  あれっ? それじゃあ……パパが、プレゼントをくれたサンタさんなのかな?  自分で殺したのに自分で悲しむパパはとっても不思議な人だけど、わたしにプレゼントをくれたサンタさんだったら、とってもいい子だ。  そうだ、いい子のパパにはプレゼントをあげないと。  わたしはゴミ袋に指で穴を開けて、床に転がっていた血がついた包丁を持って、パパのほうに近づいた。 「お前、どうして外にッ――ひっ」  ……どうして、そんなに怖そうな顔をするんだろう。  わたし、いい子だよ? 悪い子じゃないんだよ?  そして、パパも、すっごくいい子なんだよ!  うるさくてきもちわるくてみみざわりでぐずなわたしがいい子なんだから、ママを殺したパパもいい子なはず。うん、きっとそう。  そんなパパに、いいことを教えてあげる!  あのね、 「パパに、プレゼントがあるんだ!」  わたしは、パパの手首を包丁で切った。パパの欲しいものは分からないけど、パパはいい子だから、どんなプレゼントでも嬉しいよね?  パパが悲鳴を上げる。血がたくさん出てきて、とっても痛そうだ。  でも大丈夫だよ、パパ。このくらいじゃあ、人は死なないんだから。 「はいっ、どーぞ!」  ざくざくとパパの手を切って、それをパパに渡す。  パパはそれを取り損ねて、床の上に落とした。  むぅ、ちゃんと拾ってくれないだなんて。パパは意地悪だなぁ。  でも、わたしはいい子だから、ちゃんと許してあげる。  次はちゃんと拾ってね?  ……そうそう、やっぱりパパはいい子だね! 偉い偉い! 「パパ、どう? プレゼント、気に入った?」  パパが、取れかけた首をかくかくと動かして頷いた。  わたしはそんなパパの頭をなでなでしてあげる。  そして、にっこりと微笑んだ。 「メリークリスマス、パパ」  ママを殺してくれてありがとう、わたしのサンタさん。
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