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「ねえねえ、六藤ちゃんってさあ、どんな男がタイプ? スポーツ系? それともインテリ系? あ、もしかして結構面食いだったりすんの? え~、そしたら俺、だいぶ不利だなぁ~。悲し~」
「……あ、あはは……どうでしょうね……」
ガヤガヤ、喧騒ひしめく居酒屋ビルの二階。
パスタが美味しいと評判のこの店でご飯でもどうかと同僚に誘われ、何も考えずに付いてきてしまった小一時間前の浅はかな自分を恨みながら、私──六藤 結衣は、水と紛うような薄味のハイボールを喉に流し込んだ。
心ばかりに添えられたカットレモンの酸味や炭酸すらも水に溶け、ウイスキーの存在など全くもって感じられないハイボール。
小さくなる氷の水分で薄まった酒のジョッキをテーブルに置けば、再び隣の男が私の腰を引き寄せて「ねえ、彼氏いないの?」「実はいるっしょ? いないんだったら俺立候補するよ?」とあからさまな口説き文句を紡ぎ始める始末で私は心の底から辟易した。
ああ、ものすごく苦手なタイプだ。
パスタとかどうでもいいから早く帰りたい。
頼むからどこかへ行ってくれと切に願い、返事も程々に塩対応に徹する。しかし今回見事に私を騙し、こんな合コン紛いの飲み会に陥れてくれた同僚が、放っておいて欲しい私の願いも無視して余計な事を口走った。
「六藤さんは、今フリーよぉ。つい最近彼氏にフラれたばっかりだもんね! つまり狙い時!」
「えっ、マジ!? じゃあ傷心中? 俺が癒してあげよっか」
「……いえ~。今はそういうのいいんで~」
にこり。ハリボテの笑顔を浮かべて男から距離を取る。だが簡単には逃がしてくれず、男は私に恋人が居ないと知るやいなや先程までよりも一層ぐいぐい迫ってきた。
ああ、もう、余計な事を。
悪気があるのか無意識なのか、私をどんどん窮地に追い込んでいく同僚の顔面に心の中だけで特大パンチをお見舞いしつつ、私はその場に立ち上がる。「ごめんなさい、ちょっとお手洗いに」とにこやかに告げてバッグを持ったまま逃げ出した私は、トイレへと真っ直ぐ駆け込むと鏡の前で盛大に頭を抱えた。
もう、ほんとにやだ。
男なんて面倒くさい。恋愛なんて懲り懲り。
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