彼の落とし物

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車内に着信音が響く中、トモコは電話に出るべきか躊躇した。 しかし、持ち主がこの携帯電話を探して掛けてきたのかもしれないとトモコは考えた。 「もし犯人からの電話だった場合、受け渡し場所を伝えたら、すぐにでも取りに来る可能性は高い。あらかじめ警察に連絡しておき、犯人が姿を現したところで取り押さえられないだろうか。」 トモコは意を決して電話に出た。 「もしもし。」 「あぁ、もしもし。私その携帯電話の持ち主なんですが。」 「そうですか。」 「あの拾って頂いた方でしょうか?」 「はい、そうです。」 「そうですか、ありがとうございます。すいません、今どちらでしょうか?」 「電車の中です。」 「あぁ、そうでしたか。大変お手数なんですが、下車されたら駅員の方にお渡しして頂けませんでしょうか?すぐに取りに伺いますので。」 「はい、いいですよ。」 「ありがとうございます。それでは、駅名だけお教え頂けますか?」 「〇〇駅です。」 「了解しました。お手数ですが、よろしくお願い致します。」 「はい。」 トモコは震える手を抑えながら、静かに携帯電話を切った。 彼女の考えた通りだった。 ちょうど電車は〇〇駅に到着するところだった。 トモコのささやかな作戦が始まった。
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