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男は以前勤めていた会社の野瀬部長だった。
駅員は野瀬に携帯電話を確かに渡した。
あの携帯電話は野瀬のもので、偶然にもトモコが拾った。
用心深い性格の野瀬は私用の携帯電話も偽名で登録していた。
「すごく彼らしい。そして懐かしい。」
トモコは記憶の中を彷徨っていた。
数年前、野瀬はトモコと不倫関係にあった。
野瀬には家庭があるにも関わらず、本能に身を任せて関係を続けた。
結果、二人の関係に感づいた人間がいたのだろう。
職場で二人の関係を噂する声が広まり、さすがにこのままではまずいと感じた野瀬は、半ば無理やりトモコとの関係を終わらせた。
もちろん、トモコは全く納得しなかった。
近い将来、野瀬は家庭を終わらせて一緒になろうと約束してくれていたはずなのに、いきなり一方的に関係を断ち切られたとしかトモコには思えなかった。
何とか関係を続けたいトモコはどうしたら良いのかわからず、ある時期は自撮り写真を毎日野瀬に送りつけていた事もあった。
しかし、そんな事をしたところで、野瀬の気持ちは離れていく一方で、何の解決にもならなかった。
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