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そしてある日、遂にトモコは自殺未遂を起こした。
救急車で運ばれて、目が覚めた時には病院のベッドの上にいた。
一命は取りとめたものの、その時のショックでトモコは記憶喪失を起こしていた。
事故当時の事はおろか、野瀬の事まで思い出せなくなっていた。
結果的にその事件がきっかけで勤めていた会社を退職し、この半年間は実家で療養生活を送っていた。
最近になってようやくパートではあったが事務の仕事を始めたところだった。
ゆっくりと人生の再スタートを切ったかと思った矢先、人生を狂わした元凶が目の前にいる。
失った記憶は戻らないかもしれないと医者には言われていたにも関わらず、野瀬の姿を見た瞬間、トモコの頭のてっぺんからつま先まで、その全てが彼を愛して、そして憎んでいたあの頃の感覚に戻った。
今でも隠さずには生活出来ないほどの手首に残る自傷行為の傷跡が疼いた。
その痛みは当時の感覚をより鮮明なものにさせた。
野瀬は携帯電話を受け取ると、再びホームの方へ戻っていった。
トモコは急いで後を追った。
改札を通り過ぎる時、ちょうど警官らしき男性2人が視界に入ったが、もはやトモコにはどうでも良かった。
トモコは野瀬を見失わないようにする事だけに全神経を集中していた。
しかし、今さら野瀬に会って何を伝えれば良いのか、トモコはわからなかった。
ただ、野瀬がまだトモコの写真を残している理由だけは知りたかった。
ホームに降り立つと、前方で列車を待っている野瀬の姿が見えた。
ホーム上に人はまばらだった。
トモコはゆっくりと野瀬に近づき、そっと後ろに立った。
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