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陽葵はこの時期が来たかと少し胸が苦しくなった。あの1年前、病院で定期的に行われるミニコンサートで楓くんの歌を始めて聞いたんだよね。急に頼んで来てくれただけでも助かったのに歌う楓くんの姿に本当に感動して魅入ってしまった頃を鮮明に覚えている。
「ね、今日のコンサートにね飛び入り参加したいって行ってきた人がいたらしんだよね。」
「えっなにそれ。結構変わり者だね。」
「ねー、おばあちゃんたちしか聴いてないのに驚くよね。まぁボランティアなんだからいいけどね。」
今日はそのボランティアを募って行われるミニコンサート。今回は夜勤の明けで会場の手伝いのため陽葵と若菜は訪れていた。なぜか、当日になって会場が変更されて大きいホールになった。
「ちょっと若菜さん!俺を置いてかないで〜」
「置いてくとか置いてかないとか、約束してないじゃないの!」
「そんなつれないー、俺若菜さん大好きですからね?ね?」
後輩くんが若菜を追いかけてきた。
そう、最近だけど
私を好きだっていっていたあの後輩は若菜と
付き合うことになったらしい。
うん、私はすごくお似合いだと思うなぁ。
若菜の照れながら突っ込む姿もなかなか面白くって。
「若菜たちって、面白いカップルよね。あ、いい意味でね!私までほっこりしちゃう」
うん。私ってば少し心寂しいのかな
でも本当に若菜たちが幸せそうでよかった。
「そういえば、先輩たち聞きました?
さっきボランティアの人たちが集まる場所を通りかかったらかなり厳重に守られててびっくりしたんですって!」
「そうなの?私たち急遽変更になったから会場準備してて出演者の担当じゃなかったのよね陽葵。」
「うん。広くて飾り付けとか結構大変だから・・・私たちも詳細知らないんだよね。」
「そうなんですね。めっちゃ気になりますね!」
陽葵たちは今回特別に関係者のために用意された特別席に座って待機していた。
どんな人がきてくれるんだろう。
「よっ!」
「きゃっ!!」
すると突然、目の前に現れたのは薫であった。
「びっくりさせないでくださいよ。心臓止まるかと・・・」
「なんだ、久しぶりなのに冷たいな。」
「そっちが避けてたんですよね?私はいつもどおりですよ。」
「・・・ふふ。」
「もう、笑わないでくださいよ。」
「よかった。俺嫌われてると思ってたから。」
「そんな・・・そんなことないですから。隣どうぞ。」
大分話していなかった薫が現れて驚いて、最初は何を話そうか戸惑ったが安心して普通に話せてほっとした。
「「あ、朝倉先生こんにちは」」
「2人ともこんにちは。」
若菜と後輩も先生がきていることに気づき挨拶をするといつもの爽やかスマイルで返事をする。
手紙も無事に読んでくれてるのかな
楓くんと仲直りしたのかな
何してるのかな
元気にしてるのかな
知りたいことがたくさんあるけれど
どれも未練たらしい女だなと思われたくなくて
聞く勇気がでない。
「あの・・・手紙って」
ーーーーーガヤガヤ
「・・・・ん?」
勇気を振り絞って質問したことも周りの声に消されてしまう。
「うんうん。何にもないです。」
はぁ・・・忘れるの。
今日だから余計なのよね。
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