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「・・・わざと、かな?」
真希沙がレストルームのほうに姿を消したのを見届けると、シロウさんはそう尋ねてきた。
「わざと? 何のことですか?」
私は、何を聞きたいのかはすでに理解していたけれど、あえて、とぼけてみせた。
「わかってるだろう。ネックレスのことだよ」
まだ平静を装ってはいるが、静かにつぶやく言葉にはわずかに性急さが感じられた。真希沙が席を外してすぐに確認しようとしてきたあたりからも、内心がある程度、窺い知れる。
「ええ。だって」
私は、思い切り勿体をつけて、ゆっくりと言葉をつなぐ。
「そうしたほうが、真希沙から疑われるようなことにならなくて済むかと思ったんですよ」
「そう・・・かな・・・」
「まったく同じものじゃないですし。なんなら、実はアドバイスだけしておいた、ってことにしておきますよ? そんなに、後ろめたいのであれば」
「後ろめたいって、それは、きみが」
「あれっ、二人で盛り上がってる感じー?」
シロウさんが言いかけたタイミングで、真希沙が戻ってきた。
その首には、私がさっきプレゼントしたのと同じブランドのネックレス。シロウさんが先に渡していたのだろう。一週間前、私と二人で店に行き、選んだものを。
「ええ、あなたのことでね、真希沙」
わたしはにっこりと、何も知らない彼女に微笑みを向けた。
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