3進む人生

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 私は彼に振り向いてもらえるような人になろうと思った。  今の私では彼との距離は縮められないのが当然なのかもしれない。変わりたかった。  そのためにまず髪形を変えてみた。ロングにしていた髪を思い切ってショートにしてみた。  しかしその1つだけではまだ変われた気がしなかった。化粧の仕方を覚え、ファッションにも気を遣うようになった。  この3つを変えることによって、自分に自信が持てるようになり、あの彼ではないが初めて彼氏を作ることが出来た。  1つだけ進むのではない。一気に3進まないと自分は変われないと思った。  私は3進む人生なのだ。  私は大学に入った。  同じ道へ行きたかったわけではないが、あの光り輝く彼と同じ化学の大学に入った。しかし私にはもう既に彼氏がいるので、その存在は気に留めていなかった。本当は気持ちに蓋をしていただけなのかもしれないが。  化学の道に行きたいと言ったとき、親は少し考え直せばと言った。もっと女の子らしいことをしてみてはどうかと。  私の人生がなぜ性別などによって変えられなければならないのか。  確かに女友達は理系には少なかった。ただ私は自分の行く道をそのような価値観に決められたくない。  私がバスケをしたいと言った時もそうだった。スポーツをしても将来にためにはならない。そんなものはせずにもっと勉強をしろと。  私はそんなことを人に決められたくはない。自分の人生は自分で決めたっかった。そう思い家を飛び出して、好きな化学とバスケを続けてきた。  しかしこれまで運動神経は良い方だと思っていたが、バスケではなかなか通用しなかった。  それには1つ理由がある。どうしても癖でトラベリングという反則を取られてしまうのだ。  トラベリングとはボールを持って3歩以上歩いてはいけないというルールだ。  私は3進む人生なのだ。  大学4年生になった。    私は研究室に配属され、科学の勉強をしていた。  高校の時から付き合っていた彼氏とは別れ、その思いを全て研究に打ち込んでいた。  研究室から少し離れたところに薬品の酸を取りに行った時だった。  ふと横を向くと、そのドアの向こうにあの彼がいた。  憧れのバスケ部だった彼。当時付き合っていた彼女とはどうなったのか。既にそんなことを考えることもしていなかったが、あの朝に出会っていた時と同じように光輝いていた。  彼は私の研究室から3つ隣の部屋で実験をしているようだった。薬品を持っていく度に彼の顔を見るようになってしまった。  しかし今更声をかけるのも遅い気がした。ずっとあの彼女の顔がちらついてしまって考えるのも嫌だった。  薬品を持って彼の横を通っていくだけ。  私は酸を持って進むだけの人生なのだ。
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