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私は3進む人生なのだ。
床に落ちているサイコロを見ながら人生を振り返る。サイコロの目は3が上を向いていた。すごろくだったら3進む目だ。
大掃除のために実家に帰ってきた私は、自分の部屋の掃除をしていた。こうして年末に両親の元へ帰ってくることは何年続いているだろうか。
父の遺影をそっと横にずらして埃をふき取る。昔に読んでいた化学雑誌や、バスケの上達本が積み上がっている私物の山を崩す。
思い出に浸りながら読まないものをゴミ袋に入れていると、1つのサイコロと目が合ったのだ。
無造作に落ちているサイコロ。私が幼少期に遊びで使った物だろうか。そう思いながら3の目を見つめていると、脳内に昔の思い出が蘇り始めた。
そうだ、私は3進む人生だったのだ。
高校生の時、私には好きな人がいた。相手は同じバスケ部だった。
男女で練習が違うので話せることはあまりなかったが、たまにすれ違う時の横顔が好きだった。
そんなある日、何かに引き寄せられるように朝早く目が覚めた。
いつもより早く支度が済んでしまったので、普段は3駅電車に乗って学校まで行くところを、今日は歩いて行くことにしてみた。
いつもと違う朝。歩いてみると知らない香りや景色が広がっていた。
すると目の前に光り輝く存在が見えた。
すぐに周りの景色は閉ざされ、その光のみが目に飛び込んでくる。
光の根源を目を凝らして見てみると、そこには彼が立っていた。
夢中で彼の方へ駆け寄って声をかける。いつもは見れない朝の表情に、少し気の抜けたような声。
そして周りには私たちしかいない。誰にも邪魔をされない空間。
そのまま学校まで彼と話をすることが出来た。普段はこんなに話せたことがないのに、色々な話をすることが出来た。それはかけがえのない二人だけの空間だった。
次の日から私は3駅分歩いて学校へ向かった。
毎日会えるわけではなかったが、会えた日は幸せな朝を迎えることが出来た。
そして彼に彼女が出来た。
私ではなく別の女子だ。
頭が良くて大人しくて、私が持っていないものを全て持っているような人だった。
私はそれを知った日の帰り道、3駅分を歩いて帰った。
夕暮れの道を歩けばなんだか心が洗われる気がした。歩いていることでじっとせず前に進むことが大事なんだと気付かされたような感じがした。
私は3進む人生なのだ。
家に帰れば元通り。いつもと同じように夕食を食べて、勉強をして寝るだけ。そしてまた明日もいつも通りに学校へ行くのだ。
ただ1つ違うことは、歩かずに電車に乗って学校へ行くことだ。
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