半年前のリモコン

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 苦し紛れに昔のビデオを見ようという気になったのは、何か手がかりが見つかるのではないかという期待よりも、自分以外は何の動きもない家に嫌気が差して、過去の映像に逃げたいと思ったことが大きかった。  戸棚の奥に仕舞い込んだビデオデッキをコンセントに繋ぎ、再生しようとしたところで、リモコンが見当たらないことに気が付いた。  妻が慌てて荷造りをしたときに、妻専用のステレオコンポのリモコンと間違えて、荷物に紛れ込んだのかもしれない。  困った。デッキ本体の電源ボタンは、以前から陥没していて機能しないのだ。リモコンがなければ、テープを見ることはできない。  すぐに製造元のメーカーに問い合わせたが、案の定、型が古すぎて新しくリモコンを取り寄せることは不可能だった。 「ネットオークションやフリマサイトなどに、リモコンだけが出品されることもあるようですよ」  電話の向こうの担当者は気落ちする僕に同情したのか、申し訳なさそうな声で助言をしてくれた。  一縷の望みをかけてネット中を探し回ったが、当然そう都合よく見つかるものでもなかった。 ◆  妻のいない生活は、それからも続いた。  家と会社を往復するばかりの毎日がただただ続いていく。ひとりの寂しさを紛らわすように、僕は会社での職務に没入しようとした。  しかし、生き甲斐だったはずの仕事が、急に味気無さを帯びてきていた。そのことに、僕は目を(つむ)れなくなりつつあった。
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