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――これは、今僕がいるこの部屋だ。
まさに僕が今座っているソファが映し出されている。
画面の隅の表示を見ると、撮影日時は今から半年ほど前であることがわかった。
身に覚えのない映像を見守っていると、画面外から半年前の妻が現れた。
思わず僕は、息を呑んだ。妻はこんなに痩せ細っていただろうか。
半年前なら、まだ一つ屋根の下で暮らしていたころだ。なのに画面に映る妻は、僕の知っている妻からは程遠かった。
実際に対面するのではなく、画面越しに客観的に見るから余計にそんな印象を抱くのかもしれないが、それにしたって……。
この半年間、僕が頭の中に思い描いていた妻は、一体どれほど前の姿だったのだろう。
長年続けてきたすれ違い生活を、今になって僕は強烈に実感していた。
そんな僕の眼前で画面の中の妻は、細くなった体に深呼吸をさせてから口を開いた。
「匡範さん、勝手なことをしてごめんなさい。あなたがこのテープを再生するころ、わたしはもうこの世にいません。わたしの死後、そのリモコンをネットに流してもらうよう、友達に頼んであるから」
妻の言う「そのリモコン」は、画面の中で妻の膝の上にあった。
耳にした言葉の意味をすぐには理解できず、僕は戸惑うよりほかなかった。
「ここを出てから手紙を書こうかとも思ったけど、戸棚の奥に空いたビデオテープを見つけて……ふたりで暮らしたこの家で、あなたと一緒にいたときのままのわたしから、話をすることに決めました」
ビデオの荒い映像は、まるで作り物のようだ。その中に組み込まれた妻の映像が、淡々と話を続けていく。
「本当は、わたしのことは忘れて新しい人生を送っていてほしいけど……もしもあなたがリモコンをネットで探してまで、昔のビデオ――わたしとの思い出を、見ようとしてくれたのなら届けばいいと思って」
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