半年前のリモコン

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 画面の妻は、僕の知ろうとしなかった真実を明らかにしていった。  妊娠できなかったのは、突然発覚した病気の影響だったこと。  ただでさえ気持ちが遠のいている僕には、どうしても打ち明けられなかったこと。  治療を続けてきたけれど、子どもを授かるどころか、体調が悪化していく一方だということ。  そして……もう自分は先が長くないのだと、妻は感情を押し殺した口調で語った。 「面と向かえば、ずっと一緒にいてほしいと言ってしまうから」  少し目を伏せて言い淀んでから、妻は一気に言葉を紡いでいく。 「あなたは出会ったころ、父親になるのが夢だと言っていた。まだぎりぎり四十代だから、別の人と結婚すればやり直せる」  あぁ、僕は……そんなことを言ったのだろうか。記憶にない。  家庭的なところを見せた方が彼女の受けがいいだろうと、どうせその程度のことだったに違いない。 「本当はもっと早く解放してあげるべきだった。わかっていたのに、自分の命の限界が見えるまで踏ん切りがつかなかったわたしを(ゆる)してください」  妻と向き合ってこなかった責めを、僕は今、一身に負う。 「ひ、浩美(ひろみ)……」  しばらくぶりに僕の口から出た妻の名は、長らく呼び慣れていないせいか、今知ったばかりの事実に対する動揺のためか、生身の人間のものとは思えないほど不確かな響きだった。  いや、妻はもう、生身ではないのか。  その名前を呼べば妻が戻ってくるのではないか、という直感的な淡い期待は瞬時に打ち砕かれ、現実の冷たさだけが後を追ってくる。  そんな……僕は、僕は……。 「どうか、幸せな家庭を」  その言葉を最後に、妻は、今思いを託したばかりのリモコンを抱きしめて、画面から消えていった。  テープがぷつっと再生を終え、画面が真っ暗になった。  部屋でひとり座り込んだ僕の顔だけが、さっきまで妻を映していた黒いテレビ画面に映り込んでいた。
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