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君の鼓動で踊る夜
「私からあなたへ伝えることは以上です。何か質問はありますか」
「あ、えっと……この三項目目の一緒に寝るっていうのは」
「ただ寝るだけよ。添い寝ね。もちろんあなたが望めばそういう行為もしてくれると思うけど、彼から手を出すことはないから安心して。そういう欲があまりない人なのよ」
窓ガラスの向こうに見える木々が、太陽の光を浴びてエメラルドグリーンに輝く四月の午後。ホテルの一階にあるカフェテリアで、私はその女性と向き合って座っていた。
もともとはある自己啓発セミナーに参加するためにこのホテルに来た。「たった5分で新しい自分に出会える魔法の言葉」という胡散臭い名前のセミナーに参加することを決めたのは、たぶんそれだけ追い詰められていたからだ。むしろ今もその延長線上にはいて、一言で済ませるとつまり、私はもうずっと生きることに疲れている。
「どうして私に」
渡された資料に視線を落としたまま尋ねると、その女性は何の迷いもなさそうな声色で言った。
「あなた綺麗だから」
「え?」
「それに……半年前の私と似ていたから」
「似ている?」
きっと歳は私より上の、三十代前半くらいだろう。深みのある茶色に染まるストレートのロングヘアは、普段からしっかり手入れをしているのだろう、その一本一本が美しい。手足は長くファッションモデルのようなスタイルで、顔面も文句の付け所がないほどの美人だ。
正直、この人に綺麗と言われてもどう喜べば良いかわからないくらいの美人。
その自信に溢れた佇まいからしても、私とは似ても似つかない。
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