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「っ……」
苦慮の末、自ら行動を起こす事にした。
重く圧し掛かる恵太の体をひとまずは退かせようと、その肩を鷲掴みにして自分の肘もどうにか立たせる。
アレを引き抜くにはどうあったって、自分が下にいるこの体勢じゃ無理。だからお互いの位置を入れ替えるために、恵太の体を懸命に押した。
ギッチリ嵌まったおぞましいモノが弾みで抜けてはくれないだろうか。そんなささやかな期待もあったが、儚い望みは塵となって消えた。
動くとそれで、中が擦れる。そのちょっとした刺激でさえ、好き勝手されたばかりの敏感な体には過激なまでに酷だった。
「ン……」
一体何が悲しくてこんな事を。
恵太の体に足をかけ、腕には渾身の力を込めた。勢いをつけてガッと隣に倒し、やっとの思いでその体をボスっとベッドに沈めることに成功。縺れながら恵太に覆い被さり、こいつの上で荒く呼吸を刻んだ。
「ッは、……」
疲れた。見下げる顔が心から憎い。
このクソ野郎。寝てんじゃねえよ。
起きたら殺す。絶対殺す。八つ裂きにしてやる。それで野良犬のエサにする。
やけに熱い体には気づかないふりを通した。のろのろと上体を起こして恵太の上に座り込む。
とにかくコイツを引き抜くために、まともに力の入らない足を叱咤して腰を上げようとした。
でも、無理だった。両足が震える。生まれ立ての小鹿みたいだ。
情けないやら虚しいやらでいよいよ泣きたくなってきた。
「ぅ……ン……ッ」
繋がっているそこに右手を回した。僅かにどうにか腰を浮かせ、それによって耳に入る卑猥な水音。死にたい。
不躾にも中で出した。そのまま自分だけ眠りに落ちた。後の事は全部俺に押し付けた。
なんとも気楽な奴だなこの男は。
「ぁッ……っ……く、そ……」
引き抜こうとしているだけなのに、ギチッと締め付ける。
そうじゃない。俺はただ抜きたいんだ。どうしてこんなにも恥辱にまみれる行為を俺がしなきゃならない。
寝ている男の上に跨って勝手に後ろで感じるなんて、虚しさにも限度ってもんがある。これじゃまるで俺が変態みてえじゃねえかよチクショウこの野郎。
「……ん、ッふ……」
歯を食いしばってはいても鼻から抜ける自分の声。何も聞こえなかった事にして、萎える気配のないソレをどうにか少しずつ引き抜いていった。
カタカタと、膝が震える。抜こうとすれば内壁を擦りつけることになる。太くて硬くて、熱いのがよく分かる。
眉間に情けなく力が入り、無駄な持続力を見せるこの男をドス黒い気分で呪った。
萎えろ。さっさと萎えろこの野郎。カリが抜けねえんだよ、どうしてくれんだこの半端な体勢。つーか今のこの状況で起きたらマジぶっ殺す。
「ぁ……」
なんて思っていた矢先。見下ろしていた顔の、まぶたが動いた。
「っ……」
「………………なにしてんだテメエ」
眉根を寄せ、寝ぼけた顔で呟いた恵太。寝ぼけているようではあるがはっきりと目は合う。
もう嫌だ。ほんとに死にたい。
「っ……に、してんだじゃ……ねえよ……クソやろ……ッ」
最悪のタイミングで寝落ち、最悪のタイミングで覚醒した恵太に最大限の虚勢を張った。
しかし全身は小刻みに震え、自覚できる程の涙目になっていてはまったくもって様にならない。
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