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でもいい。まあいい。とにかくこれでなんとかなった。
ようやくこの苦痛から解放される。ブツの持ち主が目覚めたのなら、あとは引き抜いてもらうだけ。
「はやく抜け……っ」
「あぁ?」
必死だった、俺は。しかし恵太が返してきたのはあり得ない反応だった。
ふざけんなとでも言わんばかりの顔をして怪訝に眉をひそめ、当然のように俺の腰を左右の手でガシッと掴んだ。
「ぇ……」
「バカか。抜けるかよこの状態で。腰下ろせ」
「なっ……」
バカはてめえだ。
そう吐き捨ててやる前に、最低野郎は強行に及んだ。掴んだ俺の腰を、打ち付けるみたいに、グッと。
「っ……ぁあッ」
同時に下から突き上げられれば、元より危うかった膝が折れるのは簡単だ。
せっかく途中まで引き抜いたのに。恥辱に耐えつつも頑張ったのに。こともあろうに再び俺の中に戻ってきた大バカ野郎。去ったはずの圧迫感が勢いよく体内で増した。
「あっ……は、……」
「休んでねえで動け」
「っふざけ、な……さっきまで寝てたクセに……ぅあッ」
突き上げられて声がひっくり返る。いつもの事だが酷い横暴。腹が立ちすぎて本気で泣けてくる。
むしろもうすでに泣いている。生理的に、はたまたキレているこの感情的に、どちらなのか定かでない涙が一筋だけ頬を伝った。
「……なに泣いてんだよ」
「ッ……、ぃて……ねえよクソが……っ……んッ、ぁ……」
「…………」
全身がガチガチだ。上体を辛うじて支えている腕に、スッと恵太の手が触れてきた。
掴むよりも柔らかい手つき。その仕草で手首を握られ、強引にとは言い難い、誘うような雰囲気で俺を引き寄せた。
いくらか近づいたお互いの顔。剣呑に忌々しく見下げる俺とは対照的に、寝起きの男はどことなく、普段より表情があどけない。
俺を見る時は常にガン垂れているのがこいつだ。なのに今は珍しく静かな目つきで、じっと俺の顔を見ていた。
「……お前今日、なんか可愛いな」
「ッ……!」
瞬間、カッと血が上った。だがここでも怒鳴りつける前に突き上げられて何も言えなくなった。
まだ寝ぼけてやがんのか。こいつは今何を言った。
出会ってからここまで、なんだかんだ遠く距離を置いた事は一度としてなかったけれど、そんな気色の悪いセリフを聞かされたのは初めてだ。
普段言われ慣れていない言葉に俺の頭はよほど混乱したのだろう。
その後はもう命じられるまま、不覚にも恵太の上で腰をいいように振る始末。一度零した涙は止まらず、天敵の上で存分に泣き顔を晒しながら一夜を明かす事となった。
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