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顔を合わせると欠かさず始まっていた罵り合いが、互いの唇の塞ぎ合いに変化したのはいつからだったか。
何かある度に殴る蹴るの暴行劇を繰り広げていたはずが、気づいた時にはベッドの中でもつれ合う間柄になっていた。
なぜ。どうして。何が起こって。それを考えてもどうせ無駄。
キッカケがなんだったかなんて、今更そんなもの覚えていない。なんとなくウマの合わない俺達が、なんとなくこうなっていただけだ。
「道哉」
「あー」
「コーヒー」
「テメエで淹れて来い」
バカみたいだ。早く死んじゃえ。恵太なんか大嫌い。
コーヒーは気まぐれに飲みたいかもしれない程度のものでしかなかったようで、俺が立つ事を拒否してもこいつはそれ以上要求してこない。
ただ小声でボソッと、使えねえとかなんとか。そう言っているのは耳元で聞こえた。だから俺も小声でウゼエと呟く。
険悪な雰囲気の中、目の前のテレビの中では平和な光景が広がっている。デカいゴールデンレトリーバーとすばしっこそうな黒猫が、お互いの身を寄せ合いながら仲睦まじく戯れていた。
犬と猫との異種間でさえああも仲良くなれるというのに、人間同士の俺とこいつはどう頑張っても相容れない。別に仲良くなりたいとも思わないけど。
「……そういやさあ」
「おう」
「今日なんの日か知ってる?」
壁にかかった時計を見れば、今日が終わるまであと四時間少々。
テレビの中の犬猫コンビがやたらとイチャイチャしているのがムカつく。
今日はなんの日か。恵太からはうんともすんとも返ってこない。
こいつは馬鹿だから仕方がないが。年に一度のこの日がなんの日か、そんなのいちいち覚えていられない。
知ってるし。それくらい。ていうか覚えててほしいとか思ってないし。
去年も、一昨年も、その前の年も、毎年こいつがこの日のことを覚えていたのはたまたまだった。
無言の恵太に俺も無言で対抗していると、人をぎゅうぎゅうと抱きしめていた腕がすっと緩んで離れていった。
人の質問に答えもしないでコーヒーでも淹れに行ったか。チラッと顔を上げてみると、恵太はキッチンの方ではなくて自分の部屋に足を向けた。
「けいたー?」
「…………」
「……うっざ」
なんだそれ。シカトかよ。
俺のこの置き去りにされた感、意味不明なんですけど。
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