ケンカするほど

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 そのままソファーの前で体育座りになって鬱々とさせられる俺。  一人パッとしない思いで半ギレしそうになっていたが、しかし恵太はすぐに戻ってきた。  俺の背後とソファーとの間には恵太がいた分の隙間がまだできている。そこにデカい図体を押し入れ、どさっと粗雑に腰を下ろして再び後ろから腕を回された。  なんだよと、言い返してやるのも煩わしい。  むくれたまま無言でいると、何を考えたんだかスッと、左手を取られた。 「なん……」 「…………」 「……は……?」  左の薬指に、硬くて馴染みのない質感。目下には銀色に光るそれ。  恵太の手によって当たり前のように嵌められたそのリングを見て、ちょっと意識が飛びかける。 「やるよ」 「え?」  いや。いやいや。おかしいだろ。 「……なんで」 「いらねえか?」 「え、いや、いる……けど……」  ああ、いるんだ。俺いるんだ、コレ。  動揺が酷い。こいつの突飛な行動のおかげでこっちは頭が付いていかない。  それを無視して恵太はさっぱり何事も無かったかのように、俺の左手を放すとまた後ろからガッチリホールド態勢。そのままワンニャンの試聴を始めた。俺の精神的置き去り感が半端ない。  眠りながら足をピクピクさせている子猫のまったりほっこり動画も、フリスビー選手権で優勝した大型犬の雄姿も、俺の頭には入って来ない。  ぼーっとしたまま指輪を見下ろし、平静を装って口を開いた。 「……なんでくれたの?」 「あ? 誕生日だろ。いちいち聞かれなくたって覚えてる」 「…………」  ちくしょう。今年も忘れてなかった。こんな単細胞でも同居人の生まれた日くらい記憶しておけるようだ。  なんだかんだで毎年何かしら貰ってきたけど。でもそれにしたって、どうして今回は指輪なんて選んだんだ。どういう意味で指輪を選んで、どういうつもりで、この指に嵌めたか。  お互い四捨五入すればミソジと言われてしまう年齢なわけで、俺は純情キャラでもなければ乙女キャラでもないけれど。  左の薬指に銀色のリングって。そんなのってなんか、まるで。 「なんで指輪……」 「なんとなく」 「…………」  あーはいはい。分かってました、知ってました、聞いた俺が馬鹿でした。  この、単細胞。デリカシー欠男。俺の一瞬の動揺を返せ。 「なんだよ、悪いか。いらねえなら返せ」  うっざ。うっっっざ。 「別に悪いとか言ってないし。くれるなら貰っといてやるよ仕方ねえから」 「ああ? 少しは素直にもの言えねえのかお前」 「その言葉そっくりそのまま返す」  キライ。やっぱ嫌い。すごくキライ。大っ嫌い。  仲良く戯れる犬やら猫やらの映像を前にしながら、俺達の険悪っぷりは激化。  その後もしつこくくっ付いいたまま、小一時間ほどああだこうだと決着のつかない言い合いを続けた。
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