虚しい注意、確かな警告

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 私は世間でも名の知れた小説家であった。出した作品は次々と映像化されベストセラーとなり、内容の評価も高かった。国内でも一、二を争うほど有名な文学賞を受賞したばかりの頃、公募新人賞に応募した私のデビュー作を最終選考で酷評していた文芸評論家が「いやー、彼のデビューには私も関わっているんだけど、ね。すごい新人が現れたもんだ、って思ったよ。三度目の候補で受賞だっけ。N賞の選考委員も遅いよね。まともな審美眼のあるひとに代えたほうがいいんじゃないの」と文芸誌にエッセイを寄稿していて、私自身はその発言を静観していたものの、私の作品の愛読者がtwitterでその文芸評論家の過去の新人賞での選評を掘り返して怒っていたが、SNSの類に一切手を付けていない彼は、どこ吹く風、という感じで、突然今までほとんど言及していなかった私の作品を自分の連載で取り上げ出し、嘘くさいほど手放しの賛辞を私に浴びせはじめた。数や肩書きを得ると、周囲の反応は変わる。件の文芸評論家は氷山の一角でしかなく、そんな手合いがごろごろといた。ここまで堂々と手のひらを返されると逆に清々しく、もともと怠け者で努力嫌いの私はいっそこの状況に甘んじてやろう、と考えた。たまたま一念発起して書いたデビュー作と崖っぷちからの再起を図ったいくつかの作品が当たったに過ぎず、基本的に小説なんて書きたくなかった。嫌いである。楽に儲ける手段があるのなら、そっちに流れたかった。
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