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「世紀の大発見をしたかも」
帰り道に息を弾ませながら嬉しそうに佳奈は話す。
「夕田さんがライオンに似てるとかだろ」
「違うよー、まぁちょっと似てるけど。今日カウンセリング室にいた四人の名字を思い浮かべてみて」
「名字?」
朝切。昼岡。夕田。そして僕、夜野。
これは凄い。興奮しすぎて目がクラクラしてきた。
「朝昼夕方夜ってことか」
「そうよ。そこそこ珍しい名字四人が全員知り合いなのって素敵じゃない。しかも関連性があるっていう」
「そうだな」
「ねぇ」
そこまで言って佳奈は立ち止まる。先に進んでしまった僕は反射的に振り向く。淡い赤黄色に染まった西空を背にして、柔らかい赤みを頬に帯びた彼女がいた。
「私達四人なら奇跡を起こせそうじゃない」
「奇跡かぁ」
足を止めたまま佳奈が来るのを待つ。それからまた歩みを進める。坂上に差し掛かった僕は目の前にある光景に息をのんだ。
高所から見た遠くの町はどこまでも果てしなく顕在していた。その上には、嘘のように美しい夕焼けを乗せた雲がクリームみたく長々と伸びている。
まるで蜜柑色のプリンアラモードだな、と小さく呟いた。この美々しさは僕たちを応援しているのだろうと勝手に思い込む。
「起こせそう、じゃない」
「え?」
「起こすんだよ奇跡を」
そう決意しながら拳を強く握りしめた。昼岡さんの手帳を拾った際に偶々見たページを脳裏に焼きつける。
「死にたい」と赤文字ではっきりと書かれていた。
僕達はまだ中学生で幼すぎるかもしれない。でも奇跡を作り出すのに年齢なんて関係ない。何百回、何千回でも起こしてやるよ。
夕田さんと昼岡さん、そして佳奈の会心の笑顔をそっと思い浮かべた。
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